衝撃的だった主治医の言葉「生きているだけでいいよ」
相談ダイヤルがつないでくれた精神科には週に1度通院。主治医の女性には何でも話すことができた。
最初は「支援につながったからには早く社会復帰しないといけない」と焦っていたが、途中で意識が変わる。
きっかけは主治医の一言だった。
「私にどうなって欲しくて治療しているの?」と主治医に聞くと思いもよらない答えが返ってきたのだ。
「何かになって欲しいわけじゃない。ただ、生きていて欲しいなと思ってるだけだよ」
坂上さんの生き方を根本から揺るがす一言だった。
「最初は何、綺麗事言ってんのと思ったけど(笑)、すごく衝撃的でした。常に自分に役割を課していたので、『何者にもならなくていい』と言われたのは初めてで。
でも、私、面倒くさい人間なので不安になると聞くんです。そのたびに先生は『生きているだけでいいよ』と」
主治医からはくり返し「あなたはどうしたいの?」と聞かれた。
「私が自己決定権を取り戻すことを、先生は目指しているのかなって思う。幼いころから父親の顔色を見て行動するとか、全部、誰かを基準にしてきちゃったから、相手が求めている自分を作り過ぎちゃう。
あとは、『もっと怒っていい』とずっと言われています。家族が壊れたのは私のせいじゃないし、もっと親を責めていいって。
でも、私、親のこと怒れないんですよ。愛されてきたと思っているし。だから、先生が私の代わりに怒ってくれてる。性被害の相手のことなんか『地獄に落ちろ』とか(笑)」
誰にも迷惑をかけずに死にたいと海に向かう
ひきこもってしばらく経ったころ、坂上さんは地元の支援団体に電話をして家族を支援につなげようとした。
妹は家庭内暴力と買い物依存がひどく、困った両親から電話で懇願されたのだ。
だが、姉が自分を施設に入れようとしていると誤解した妹が激高。「いい加減にして!」と電話をかけてきた。
「家族のためにめちゃめちゃ考えて動いたのに、全部が悪い方に作用しちゃった。それで、また私が家庭を崩したみたいに感じて……」
追い詰められた坂上さんは、電車で海に向かった。誰にも迷惑をかけずに死ねる場所を必死に探して実行に移そうとしたのだ。
だが、お世話になってきた支援団体に電話で別れの挨拶をしたことで警察に通報されてしまう。実家にも連絡が行ってしまい、警察に保護された。
「あくまでも行方不明ってことにしたかったんですよ。でも、親にバレちゃったから、もう同じことはできないですね」
戻ってきた坂上さんを主治医はいつもと変わらず迎えてくれた。
その後、「とにかく家から出よう」と考えて、若者サポートステーション(自立や働くことに悩む若者と家族のための相談窓口)に行ったり、幼稚園教諭に戻ろうと履歴書を書いたりした。
だが、どちらもすぐに断念。またフラッシュバックが起きて寝込んでしまったからだ。
「自分で発信するときは『ここまでは話しても大丈夫』って調整ができる。でも、ニュースとか入ってくる情報は操作できないから、何かのトリガーに触れるとフラッシュバックしちゃうんです」

















