1本の電話で封印した性被害の記憶が……

ある日、テレビ番組でAさんという女性を知った。Aさんは生きづらさを抱える人の支援をしている。

坂上さんが「死にたい」と書いてメールを送ると、すぐに返事が来た。約束をしたのは毎日、空の写真を撮って、メールで送り合うこと。東京に住むAさんは、坂上さんが住んでいる地方都市にも会いに来て、話を聞いてくれた。

坂上さんが幼稚園で働き始めてからもAさんとの交流は続いた。

「普段の私は常に頑張りモード。家族を壊さないために、必死に必死に必死に頑張る。それが、年末年始の休みになると途切れて死にたくなっちゃうので、東京で過ごすのが毎年のルーティーンになっていました」

(撮影/集英社オンライン)
(撮影/集英社オンライン)

20代後半で幼稚園を辞めて上京。Aさんに支援の仕事を手伝って欲しいと頼まれ、「生きづらい人を支えたい」と思ったからだ。

両親には猛反対されたが、移住ではなく「しばらく、やりたい仕事がある」と言って家を出た。

相談員として働き始めて数週間後。坂上さんは「ついさっき、性被害を受けた」と泣きながら訴える女性の電話を受けた。

「訴えてくる感覚がリアルで、私が同じような被害を受けたときの感覚が、ぶわってフラッシュバックしちゃったんです。そのときの匂いだったり、気持ち悪さだったり、一気に襲ってきちゃって……」

坂上さんが小学校に入学して間もないころのこと。帰り道に後ろを付けてくる男性がいた。

写真はイメージです(写真/PhotoAC)
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「こんにちは。おじちゃんが飼っている犬の写真見る?」

男性は親しげに声をかけてくる。巧妙に坂上さんの警戒心を解いていき、ある日、男性は自らの男性器を出して「触って」と言った。

「これ何って、ただ怖くて、固まっちゃって。私の顔や体に大きくなった男性器を押し付けてくるとか、不同意性交等罪まではいかないけど、その直前っていう状態まで……。

しかも、『このことを大人に言っちゃうと、美幸ちゃんが警察に連れて行かれるんだ。お父さんにもお母さんにも会えなくなるから、絶対言っちゃダメだよ。また明日ね』と言って、何度もくり返すんです。

今考えると、私が学校に行けなくなったのは、それも影響していたのかなって……」

親にも言えないまま20年封印した記憶が突然蘇ったことで、坂上さんの人生は暗転する――。

後編へ​つづく『「また私は性被害に遭ったのか」…トラウマ治療中に“被害”を受けた30代女性の絶望と彼女を救った医師の“ある一言”』〉​

取材・文/萩原絹代