幼い子どもを亡くした母

やはり一番忘れられない場面は、交通事故で幼い子どもを亡くして母親が泣き叫んでいた事故現場だろうか。

現場に向かった。到着すると、目の前に、母親がよちよち歩きくらいの子どもを抱きかかえていた。

「○○ちゃん、起きなさい」

そうヒステリックに母親が子どもの体を揺さぶっている。瀕死の重傷だろうか、と近寄ろうとした次の瞬間、胸がふさがれる気持ちになった。

監察医が目にしたのは亡き我が子を抱える母の姿だった(写真はイメージ/shutterstock)
監察医が目にしたのは亡き我が子を抱える母の姿だった(写真はイメージ/shutterstock)
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子どもは、瀕死の重傷どころか、頭を轢かれて、脳が飛び出して、即死の状態であったからだ。

「○○ちゃん、お願いだから、ねえもう一度、ママと呼んで」

お母さんはその子を抱っこしながら、必死に話しかけている。もちろん子どもは返事をしない。

そういう現場に警察官と一緒に検死に行った。

しかし、そこで、

「検死に来ましたから、その子どもさんを見させてください」

とは、どうしても言えなかった。

母親は頭が潰れて脳が飛び出している子どもの死を認めていなかったのだ。客観的に見れば、完全に亡くなっているのだが、母親としてはその死を認められないで、子どもに話しかけている。

やるせなかった。

結局、次の日、出直すことになった。