「夜の採卵ができない」理由…キャリアと治療の両立が課題
──起業からこれまでのキャリアを振り返ると、2019年の「にしたんクリニック」から「にしたんARTクリニック」へと事業を拡大。不妊治療とはかけ離れた業界からのスタートで、こうした事業展開に至った背景を教えてください。
根底にあるのは「社会の課題に対して、事業を通じてアプローチし、少しでも良くしていきたい」という思いです。僕はいま56歳なので、人生もあと3分の1ぐらいでしょうし、自分自身も不妊治療を受けたおかげで娘を授かれた実感があります。
だからこそ、最後の仕事として「命を生み出す」というテーマに真正面から向き合いたいと考えるようになり、不妊治療を通じて少子高齢化という課題に向き合うことに、自分の時間を使いたいと思いました。
──不妊治療の現場から見て、少子化の本質的な課題はどこにありますか?
「経済的な理由」がよく挙げられますが、一概にそうとはいえないと感じています。昭和以前の日本や、経済的には決して豊かではない国でも、子どもがたくさん生まれているケースはありますよね。 実際に不妊治療の現場に携わっていると、「子どもがほしいのに産みにくい環境」が大きな要因だと強く実感するんです。
まず、晩婚化によって不妊治療が必要なケースは増えていますが、そのなかで女性の負担の大きさを軽くする手立てがまだまだ足りないと感じています。とくにキャリアとの両立は大きな課題です。
女性の社会進出が進んでいる一方で、ほとんどの不妊治療クリニックは19時には営業を終了し、土日の診療時間も午前中だけというところが多い。夜に採卵(体外受精のために卵巣から卵子を取り出す処置)をしているクリニックは、まだ限られています。これでは、通いたくても通えない方が出てしまいますよね。
──現在、「にしたんARTクリニック」では平日22時まで診療されていますが、夜間に採卵まで行なうことは、他のクリニックではなぜ実現が難しいのでしょうか。
「にしたんARTクリニック」を創業する前はテクニカルな問題かと思っていたのですが、実は単にクリニック側の働き方の問題なんですよね。採卵を夜に行なうと、その後に採れた卵子の処理を胚培養士が担います。個数をカウントしたり、状態を整えたりする必要があって、採れる数は人によってバラバラなので、作業時間が読みにくい。
場合によっては処理が終わるころには終電もなくなるので、「そんな働き方はしたくない」という話になってしまう。けれど、本来は患者さまが病院の都合に合わせなければならない状況自体が問題だと思っています。













