息子のために潔白を証明したい
家族でまず話し合った。看護師である妻の温子には、夫は絶対に過ちを犯していないという信念があった。闘うのならば、命懸けで支えるという覚悟はとっくにできていた。沖縄の実家に連絡をすると、母親は不安でたまらない様子だった。
「今起こっている事件が何か私にはよく分からないけれど、ここでまた何か行動を起こして裏目に出て、サッカー界を追放とかになってしまったら、どうするの」
仲裁に申し立てをすることで、子どもの頃から大好きだったサッカーが奪われてしまうことにならないのか。すでに制裁も終わっているし、このままではいけないの。母には、息子がJリーグという大きな組織を相手取って裁判を起こすということが、とても恐ろしく思えた。
米軍基地問題などを取材すると理解できるが、もともと、ウチナーンチュのメンタリティは争い事を好まない。琉球王朝時代に広く海外に知られた守礼の民の末裔はまず平和裏に事を進められるようにする。母との電話での話し合いで我那覇は黙り込んだ。しかし、それも一瞬であった。口を開くと決意を語った。
「やっぱり琉偉のことを考えると、潔白を証明したいと思う。大きくなって、お父さんはサッカーに対して間違ったことをしていなかったんだと分かってもらいたいんだよ」
息子の名前は琉偉。もちろん、琉球の琉からとった。4歳になろうとしていた。ある日、家の中で一緒にボールを蹴りながら、「大きくなったら何になりたい?」と聞くと「パパみたいなサッカー選手」と答えた。嬉しかった半面、考えざるをえなくなった。
この子が大きくなったときに自分にドーピング違反の汚名がまだつきまとっていたら……。琉偉はその息子と言われてしまう。いくら費用がかかろうとも、つらい思いを絶対させたくはない。母も最後は腹をくくった。
「そこまで考えているのなら、やりなさい。私も絶対に信じているから。沖縄のバアバだって琉偉の将来を考えて応援してるよ」
文/木村元彦
争うは本意ならねど(集英社公式サイトhttps://books.shueisha.co.jp/cbs/c2082/c290-26384/にて26年5月6日まで無料公開中)













