委員長の“誤認だらけの詰問”

この頃から、青木の口調が事実関係を聞くというスタンスから、詰問調に徐々に変わり始めた。そして発言の中でしばしば、事実や認識の誤認が散見されだす。

「判断は現場のドクターだけで行なうべきものではない」と述べているが、これはWADA規程を読み違えている。

後藤にしてみれば、その都度修正と確認をしたいが、対話や会議ではなく事情聴取であるために、聞かれたことに答えるしかない。ドーピングコントロール委員会委員長とJFAスポーツ医学委員会委員長を務める医師にしては知識があまりに浅薄な印象を発散していた青木は、次に医療関係者が聞いたら、腰を抜かすようなことを言った。

「あのー、少なくとも水分は飲めるということはうーん、胃の中が空っぽということではなく、例えば少なくとも内服薬、胃の粘膜を保護するようなものとか、あるいは禁止薬物の入っていない、例えば解熱剤の筋肉注射とかそういったものは普通選択肢として当然あったはずだろうけど」

脱水で熱が上がって衰弱している患者に解熱剤を打てば、さらに血管が拡張して脱水症状は悪化する。抵抗力がますます下がり、筋痙攣を起こして死亡してしまう危険性すらある。

しかし、青木は正当な医療行為の選択肢としてその解熱剤投与があったはずだろうと言う。後藤はそのような代替案が権威ある同業者の口から出たことに驚きを禁じえなかった。

青木の弁舌はさらに続く。

「あえて点滴注射にというふうに?(後藤先生は)この間の1月のJリーグ連絡協議会、ドクター研修会にいましたよね?」

後藤「はい、参加しています」

次に青木は、我那覇は脱水で発熱している症状ではなかったのではないかと、疑念を呈しだした。

青木「200㏄で良くなってしまう脱水症状というのはどういうものか」

後藤「それは僕も、だから治療するときにこんなに少なくて大丈夫なのかと感じました」

我那覇「そのときは、自分が点滴をしてもらったあとに水をもらって飲むことができたので、途中でやめて様子を見たいと申告しました」

青木「点滴はどのくらいの時間を要したか」

後藤「30分程度」

青木「その後食事はできたか」

我那覇「あまり摂れていない」

青木「(点滴治療を)やらなかったらどうかという判断はできなかったか。規程内での方法で行なった場合を考えたか。他の治療、筋肉注射だとか、つまりドーピングのいわゆる規程の中では静脈注射は原則禁止ということになっていますよね。この病気にこれが有効だというふうなことが認められたもの以外は、ドーピングでは静脈注射はだめですよという規程になっているし、今度の規程にも書いてあるし、そういった危険性を最初になぜやらなければならなかったのか?」

後藤「水分が足らないことが一番の理由で、点滴が必要と判断しました」

青木「でも400、いや200で良くなっちゃったんですよね」

後藤もこらえきれずキレ気味に反論する。