ノルマに追われる営業たちの事情
みなさんも薄々は気づいているかもしれないが、営業担当が本気になるのは「契約前」ではあるのに対し、お客さまが本気になるのは契約金入金後の「契約後」。
それと、契約前に展示場やショールームで見た設備関係のどれが標準品で、どれがオプション品かを、きちんとすべて正確に把握して契約するお客さまもほとんどいない。
その理由として、お客さまが真剣になって細かい打ち合わせ内容が記憶に残るようになるのは、ほとんど工事請負の契約後というのが現実だからである。
住宅というものは間取りや図面、金額はある程度確定させて契約はするものの、細かい仕様決めや色決め等は契約後に打ち合わせすることが一般的。
もちろん契約書には「標準仕様書」として、文字でびっしり標準仕様のキッチンやユニットバス等が型番で記されてはいる。
しかし、実際、契約時にその標準仕様書までを読むお客さまはいないし、担当営業マンが製品型番を読み上げたところで違いがわかるものでもない。
お客さまは住宅設備や仕様を視覚的には覚えているが、その「製品型番」など告げられてもわかるはずがない。
住宅を購入された経験のある方ならわかると思うが、担当営業マンもお客さまも、契約時はほとんど金額の部分と添付されている図面に集中するだけで時間的に目いっぱいである。
だから経験もしていない初回接客の段階では、ある程度、オプション品、標準品を説明したうえで、「このなかからお客さまの好きなものが選べますよー」くらいのことをいっておけばいいというのが住宅営業マンの共通認識でもある。
展示場に来場の初期段階、すべては「印象第一」。
「オプション品もありますけど、だいたい標準品なのでお好みのものを選べますよー」というのと、いちいちご丁寧に「お客さま、これは標準ですけど、それはオプションです! いえっ、あれもオプションです」というのでは大きく印象が変わるのはいうまでもないからである。
そして初回接客として営業マンのその日のゴールは「着座」である。
ショールームを一周し、ある程度お客さまの気分を高揚させた流れで営業マンは商談テーブルに誘導する。そのとき、お客さまにお声かけする言葉も巧みである。
「最後にカタログだけお持ち帰りいただきたいので、こちらでお飲み物でも飲んでお待ちください」とドリンクメニューを見せ、ドリンクのオーダーを取る。ここでのポイントは「最後に」と「お持ち帰りいただきたい」というワードである。
お客さまはこの「最後」という言葉で「これでとりあえず今日は終わりか」という安堵感と、「お持ち帰り」という言葉で「あとはカタログをもらったら帰れる」という安心感で、商談テーブルに家族で着席するわけである。
しかし、営業担当としては、これからが本番。
お客さまが安心し切ってドリンクをストローでチュウチュウ吸っているなか、営業マンはカタログから金融電卓、iPad と、フル装備の完全武装でお客さまの目の前に現れることだろう。
高級な高額老舗住宅メーカーなら単価も高いので、担当営業は3カ月や4カ月で1棟の契約でも、会社からはなんのおとがめもないかもしれないが、薄利多売で会社を回しているローコスト住宅メーカーではそうもいかない。
ローコスト住宅メーカーの営業マンは、毎月1棟がノルマとなるからだ。
文/屋敷康蔵













