この本に出てくる曲でCDをつくりたい

東山 最初にお会いしたときに、佐橋さんが福岡に来るのがちょっと遅れたんですよね。僕、その頃は市外に住んでいて、終電の時間があったので早く帰らなきゃいけなかったんですよ。佐橋さんが来てから一時間も一緒にいられなかったんじゃないかな。そうしたら佐橋さんのほうから後日、「最近この本読んで面白かった」というメールをいただいたんです。覚えてます?
佐橋 覚えてます、覚えてます。
東山 ジョン・アーヴィングの『神秘大通り』のことを書いていましたよね。すごく熱いジョン・アーヴィング愛にあふれたメールが来て、そのとき僕はまだ読んでなかったので、早速読んで、あれからしばらくジョン・アーヴィングを読んでました。
佐橋 プロの作家さんと知り合ったのは初めてだったので、嬉しくて、自分の小説への思いをぶつけたくなったんですよ。
東山 僕も嬉しくて。僕にとってはミュージシャンって本当に憧れの存在なんです。もし僕が本当になりたいものが何かって聞かれたらミュージシャンって答えます。もし僕にギターを弾く才能があったら、あるいは悪魔と契約してギターを弾く才能をもらえるなら、迷うことなくギタリストになりたい。なので、ミュージシャンの人たちと知り合うと子供に戻っちゃうんです。魔法使いを見ているような感じで佐橋さんたちを見ています。
佐橋 本当に音楽がお好きなんですよね。ギターの話をしているとき、東山さん、めっちゃ楽しそうですからね。
東山 佐橋さんが福岡でコンサートをやるときにご招待いただいたことも何度かありましたよね。根本さんとの「本日のおすすめ」とか。
佐橋 「本日のおすすめ」って、スターダスト☆レビューの根本要さんと二人でやっている、好き勝手に人の曲をやるだけのユニットがあるんです。
東山 読んでてお気づきになるところはありましたか?
佐橋 そういえば『ママがロックンロールしてたころ』の中に出てきた曲の中には、僕らがライブでやった曲もありましたね。
東山 そうです。さらには主人公が福岡物産展でギターを弾くシーンがありましたよね。僕、あのシーンは佐橋さんを思いながら書いたんですけど。
佐橋 えっ、本当?
東山 根本さんと佐橋さんがエアロスミスの「ウォーク・ディス・ウェイ」をやりましたよね。
佐橋 やりました、やりました。
東山 「本日のおすすめ」で聴いたときに、フォークギターでできるんだと。佐橋さんと根本さんのコンサートを思い出して書きました。
佐橋 そうか。あの場面でC7の話が出てきて「ちゃんと分かってるな」と思ったんですよ。「ウォーク・ディス・ウェイ」はC7というコードが延々続いて、皆さんご存じのリフだけの曲。そっか、あのときのことだったんだ。要さんに言っとこう。来週会うから。
『ママがロックンロールしてたころ』を読んでつくづく思ったんですけど、東山さんは本当に音楽がお好きですよね。『路傍』でも、いきなりブライアン・アダムスをジュークボックスで掛けますからね。ああいう場面に欠かせない小道具として音楽を見事に挟み込んでくる。僕のように音楽が大好きな人間としてはわくわくしちゃうというか。それこそノリが出るというか。実は僕、東山さんの小説を何日もかけて読んだことは一回もないんです。ばーっと一気に読んじゃう。東山さんの文章にはビートがあるんですよ。ビートニクだよね、そういう意味では。
東山 音楽はいつでも使いたいんですけど、ふだんは自制しているんですよ。あまり音楽と関係のない話で、細かいニッチなところばかりに凝ってしまうと嫌らしいので。今回は書く理由があるので、思い切り書けましたね。
佐橋 主人公の名前。まず、そこでぶっと笑うじゃないですか。炳児少年。このヘイ、初めて見る字でしたけど、そこからすでに笑いました。父親がジミ・ヘンドリックスと迷ったけど、いくらなんでも久保田ヘンドリックスはないだろうとか、ジミー・ペイジから取ったけど、そもそもペイジは名字じゃないと思ったら、ちゃんと突っ込んであってそれも笑えました。
 僕はこの作品の中に登場するアーティスト名と曲名は、ほぼ知ってましたけど、唯一分からなかったのは、ドッケンというバンドの曲。
東山 ヘヴィ・メタルですね。佐橋さんはヘビメタは聴かないでしょう。
佐橋 東山さんは世代的にLAメタルがはやってた頃に十代だったんでしょう。
東山 そうなんです。一九八〇年代に十代だったので。
佐橋 その頃、僕はすでにスタジオミュージシャンの仕事をしていたせいか、あまりヘビメタは聴かなかったんですよ。作中に出てきたトニー・マカパインは知ってるし、もちろんマイケル・シェンカーも知ってるけど、マイケル・シェンカー・グループの「アームド・アンド・レディ」っていう曲は頭に浮かばなかったので、検索して聴いちゃいました。聴いてみたら曲は知ってましたね。
 この小説をお読みになる方、東山ファンはたくさんいらっしゃると思いますけど、はっきり言って、出てくる全アーティストが分かる方って多分いないと思います。でも、今はネットで検索できるから、知らなくてもまったく問題はない。余計なお世話なんですけど、スポティファイみたいな音楽配信サービスと連動するといいと思いますね。そうすると、読んだ方も、これから読もうかなと思っている方も、どんな音楽が小説の中に流れているのかが聴けるじゃないですか。絶対、受けると思います。
 何ならこの本に出てくる曲でCDをつくりたいなと思ったぐらい。ロックが中心だけど、ベッシー・スミス、ルー・リードって、すごく幅が広いじゃないですか。岡村孝子まで出てくるんだから。にやにやしながら読んでいたら、妻に気持ち悪がられて「コメディなの」って聞かれました。違うんだけど(笑)。

ひがしやま・あきら ◉1968年、台湾台北市生まれ。9歳の時に家族で福岡へ移住。2003年、「このミステリーがすごい!」大賞銀賞・読者賞受賞の長編を改題した『逃亡作法 TURD ON THE RUN』でデビュー。09年『路傍』で大藪春彦賞、15年『流』で直木賞を受賞。16年『罪の終わり』で中央公論文芸賞、17~18年『僕が殺した人と僕を殺した人』で、織田作之助賞、読売文学賞、渡辺淳一文学賞を受賞。近著に『怪物』『わたしはわたしで』『邪行のビビウ』『三毒狩り』などがある。
ひがしやま・あきら ◉1968年、台湾台北市生まれ。9歳の時に家族で福岡へ移住。2003年、「このミステリーがすごい!」大賞銀賞・読者賞受賞の長編を改題した『逃亡作法 TURD ON THE RUN』でデビュー。09年『路傍』で大藪春彦賞、15年『流』で直木賞を受賞。16年『罪の終わり』で中央公論文芸賞、17~18年『僕が殺した人と僕を殺した人』で、織田作之助賞、読売文学賞、渡辺淳一文学賞を受賞。近著に『怪物』『わたしはわたしで』『邪行のビビウ』『三毒狩り』などがある。