最低限の葬儀を約束する三つのセーフティーネット

第一に用意されているのは「生活保護法」による保障である。同法は、困窮の程度によって必要な保護を行い、文化的で最低限度の生活を約束する。そのため生活保護を受けている人は、たとえ葬儀費用を準備できなかったとしても、遺体の運搬、火葬、納骨までに必要なものを「葬祭扶助」として受け取れる。

第二に「行旅病人及行旅死亡人取扱法」によって、行政が遺体を埋葬ないし火葬することが義務付けられている。「行旅」とは旅行中、移動中の人を指すが、この古めかしい言い方は、法律が1899年に施行されたものだからだ。

当時は病気や飢えなどさまざまな理由で行き倒れとなり、命を落とす人も少なくなかった。運転免許証など身分を記すもののない時代の身元不明者ゆえ、身体的特徴や着衣、所持品などを『官報』に記載の上で、行政が遺体を処理した。この官報記載は、実は今も変わらない。

第三は「墓地埋葬法」による処理である。第9条にこう記されている。《死体の埋葬又は火葬を行う者がないとき又は判明しないときは、死亡地の市町村長が、これを行わなければならない。規定により埋葬又は火葬を行ったときは、その費用に関しては、行旅病人及び行旅死亡人取扱法の規定を準用する》

生活保護を受けておらず、身元がわかっている人でも、葬儀を行うだけのおカネが残されていない場合には、市区町村長が埋葬等を行う。女優の島田陽子がまさにこのパターンだ。ただ、いずれも「遺体の処理」であり、人の尊厳に配慮したものではない。そこで凄惨な「孤独死」に至らないように、さまざまなサービスを提供する終活事業会社がある。

病院や賃貸住宅の入居保証、日常の買い物や介護やリハビリの世話、葬儀や墓の予約に至るまでサービスメニューは数多いが、玉石混淆で安心できるビジネスには育っていない。そこで政府は、孤独・孤立対策推進室が「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」を作成するなど終活土壌を整えている。しかし高齢者の孤独・孤立支援はビジネスだけで割り切れものではない。必要とされるのは支援を必要とする人の気持ちを大切にする精神性だろう。

無縁仏 (PhotoAC)
無縁仏 (PhotoAC)
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文/伊藤博敏

『火葬秘史 骨になるまで』(小学館)
伊藤博俊
『火葬秘史 骨になるまで』(小学館)
2026年1月15日
1,980円(税込)
320ページ
ISBN: 978-4093965583

語られざる「火葬」のタブーに迫る渾身作

日本中が将来の右肩上がりの成長を信じていた昭和の時代、葬儀は、参列者の数を競うような壮大なスタイルで行われていた。しかしバブル経済の崩壊、そしてそこから続く「失われた30年」を経て、人の尊厳を守り、生きてきた証を残すはずの弔いは、急速に簡素化が進んでいる。

《そんな傾向に抗する気持ちが、私は年々、強くなった。人間だけが行う「葬送」という文化が失われていいのか。皆で弔い両親や先祖に畏敬の念を持って接する場所(墓)を確保する習俗は、後世に残すべきではないのか――》(「はじめに」より)

筆者の問いは、ここから始まる。

本書では日本人が「死」と「弔い」にどう向き合ってきたのか、その歴史と変遷を振り返る。さらに、そのダイナミックな時代の動きの中で暗躍した人々の生き様をたどる。

古代から続く「ケガレ」の思想と、「キヨメ」を担った人々。
「肉」と「火葬」という二大タブーを逆手に取って富と権力を手にした、明治の政商。
戦後の混乱と復興を象徴する、昭和の怪商。
争奪戦を制した、中国人経営者――

圧倒的な取材力を持つ筆者が、語られざる“タブー”に迫る。

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