「うまいものを作っていても、閉店してしまう店は多い」
実際、ショッピングモールのフードコートなどではいわゆる無難な味が増えていくなかで、この店は真逆の道を行った。妥協せず、尖り続けた。それができたのは、伊東さん自身のキャリアと基礎体力があったからでもある。
「『だるま』の前にもラーメン屋で修業していたのが大きいですね。基礎ができているから、どの店に行っても自信が持てました」(伊東さん)
そのいっぽうで、閉店という現実が突きつけられる。今回の閉店は、売上不振や味への評価が理由ではない。アクアシティ全体のリニューアルに伴うもので、施設側から店舗としては更新しないという判断が下された。
「自分としては続けたかったですが、アクアシティとしての判断もありますし、やむを得ない部分はあります」(伊東さん)
問題は、その先だ。「三代目 博多だるま」の今後はどうなっていくのか。伊東さんは今もなお次の一手を決めきれずにいる。
「地元・千葉でやりたいなとうっすらは考えているんですが、千葉のロードサイドでこのクサウマをファミリーが食べに来てくれるのか……そこは正直、めちゃくちゃ悩んでます」(伊東さん)
独特の味わいを持つ博多ラーメンは郊外型の店舗は、あまり見ることがない。「お腹いっぱいになれる」「家族で来やすい」という分かりやすさで、大型チェーン店や家系ラーメン店などは成功しているが、博多ラーメンはどうか。
味には自信がある。お客さんも呼べる。リピーターを作る力もある。だが、それと生活が成り立つかは別問題だ。
「うまいものを作っていても、閉店してしまう店って本当に多いじゃないですか。それが、ただただ悲しい」(伊東さん)
豚骨ラーメンの名店が、静かに姿を消していく現実。だからこそ、リスタートには一歩踏みとどまってしまう。
「本格派の博多ラーメンはブランドが出来上がれば、首都圏では希少価値になる。でも、知られていなければそれはなかったことになっちゃうんですよね」(伊東さん)
夜営業、駅前、飲んだ後の一杯――そんなイメージが先行する博多ラーメンを、どう再定義するのか。その答えはまだ出ていない。それでも、「三代目 博多だるま」で積み上げてきたものは確かだ。集合施設でも本気の豚骨ラーメンは通用する。その事実をこの店は証明した。
「三代目 博多だるま」も閉店まで、残りわずか。それでも伊東源太郎というラーメン職人が、豚骨を愛し、じゃじゃ馬と向き合い続けた日々は、確かにここに刻まれている。
その火が、どこかで再び灯ることを願わずにはいられない。
取材・文・撮影/井手隊長












