現実の価格でこそ、資本は本来の働きを取り戻す
キャッシュリッチ小型株、親子上場の歪み、簿価不動産を抱える中堅企業、黒字体質のまま過小評価されてきた企業、そして上場維持コストを重荷に感じながらそれでも沈黙していたIT企業——これらは、高値圏では誰にも見向きされなかったが、逆回転によって株価が地表に戻ったとき、最初に動く。
親会社による完全子会社化、MBO、事業売却、地方製造業のバイアウト。外資が退場した空白を埋めるようにして、国内資本が一斉に動き出す。
この資本再編は、2010年代のM&Aブームをはるかに超える規模になる可能性が高く、なにしろ高値では誰も動けないが、逆回転こそが“動ける価格”を再び市場に提示するからだ。
逆回転とは、暴落ではなく“価格が現実に戻る現象”であり、現実の価格でこそ、資本は本来の働きを取り戻す。
私は、キヤノン撤退を単なる工場閉鎖としてではなく、「中国モデルの終わり」「外資逃避の最終章」「日本市場逆回転の序章」「逆回転後の巨大な投資機会の開門」という四重構造として見ている。
国家モデルの心臓が止まり、雇用と消費という臓器が弱る
そもそも国家モデルの心臓が止まり、雇用と消費という臓器が弱る。資本流出という血が抜け、国産置換という骨格が組み替わりつつある以上、中国は成長ではなく“縮小の長い時代”へと入る。
外資は必ず逃げ、逃げた資金がたまたま日本へ流れ込む。その上昇が幻影であれば、逆回転が訪れるのもまた必然である。
しかし驚くことに、その逆回転後こそが“本当の強者”が浮かび上がる世界であり、忘れられた企業が最も強く光を放ち始める世界でもある。
修羅場のマネーがこれまで訴え続けてきた“市場の裏側で息づく真の価値”は、熱狂の渦中では誰にも届かない。だが、熱狂が剥がれ、相場が静まり返り、価格が素に戻るその瞬間こそ、もっとも強く響く。
「市場は、必ず忘れる。」「だが資本は、決して忘れない。」そして逆回転とは、忘れられた企業に光を戻す儀式である。
文/木戸次郎 写真/shutterstock













