サンマ漁業関係者の苦境
近年、サンマが記録的な不漁に見舞われていることで、サンマ漁業関係者は厳しい状況に置かれている。水揚げ減少で単価は高くなっているものの、総漁獲金額は豊漁期に比べ大幅に減少。サンマ漁に見切りを付ける漁業者も多い。
これまでサンマの総水揚げ金額は、おおむね200億円以上、多い年には300億円に達したが、5年ほど前から深刻な不漁となったことで、2023年には約100億円と大幅に減った。これにより、サンマ専用の漁船である棒受け網漁船は、2024年が100隻程度で、10年前より50隻ほど減っている。棒受け網漁船は、ほかの魚種を獲ることはない。
不漁で過去に例がないほど、サンマの漁業経営が苦しい状況となっている中で、サンマの主力団体である「全国さんま棒受網漁業協同組合」の大石浩平専務理事は、「不漁だからといって、今、何か特別なことをするというだけの体力はない。
ほかの魚を獲るために船を造るにしても、ウクライナ情勢などで資材費が高騰し、以前は9~10億円弱で建造できたものの、今は12~13億円が必要で造れない。サンマ漁船は、多くが東日本大震災で被災したが、国の共同利用事業で3分の2の補助を受けて新たに建造したばかり。災害復旧によって建造した場合は、ほかの漁法に転換しても、現状復帰・回復が必要になる。
さらに、他魚種については、資源管理強化の発想が前提になるため、現状の枠から出られないのが現状。以前はロシア海域で、サケ・マス漁をやる漁船もあったが、ロシア側が同国水域における流し網漁業の操業を禁止したため、2016年からは、日本の200カイリでしか操業できなくなっている」と、サンマ漁業の窮状を訴える。
市場でもサンマ不漁を嘆く声が漏れ聞こえる
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文/川本大吾 写真/shutterstock
『国産の魚はどこへ消えたのか?』(講談社)
川本大吾
2025年12月4日
1,210円(税込)
256ページ
ISBN: 978-4065421901
1980年代末まで世界一の漁業大国として、和の食文化を支えてきた日本の漁業。だが近年は漁獲量もベスト10圏外に落ち凋落著しい。なぜいまのような状況になっているのか。気候変動・乱獲などによる不漁、せっかくたくさん獲っても一般消費者の食卓まで届かない流通の問題、サーモン、サバをはじめ、海外からの輸入増大、後継者不足。日本の漁業の現在を長年の取材から明らかにしながら、これからの道を探る。
【目次】
第一章 減り続ける日本の魚
〇漁業生産、過去最低を更新中〇世界は増加傾向だが天然魚は頭打ち〇日本漁業、水揚げ1位はマイワシetc.
第二章 獲っても食べない国産魚
〇今の魚の自給率は半分近く〇スーパーの台頭が魚離れの原因か〇マグロやアジの開きも安さ重視etc.
第三章 日本一の魚を食べない理由
〇マイワシが魚の餌ではもったいない〇マイワシの流通阻む100グラムの壁〇職人からも調理が敬遠される etc.
第四章 消費の主役は外国魚
〇伝統・郷土料理にもノルウェー産〇ノルウェーに漁港がない理由〇アフリカ諸国で人気、日本産のサバetc.
第五章 秋の味覚はいつ復活するのか
〇豊漁には程遠い推定資源量〇サンマ漁業関係者の苦境〇マグロ漁やイカ漁へ挑戦etc.
第六章 揺れ動く日本のマグロ事情
〇「大間まぐろ」がほかの追随を許さない理由とは〇マグロ管理の甘さを露呈、国の対応急務etc.
第七章 強化される内外のマグロ管理
〇日本周辺のマグロ、一時は最低水準に〇流通の主役・普及品のメバチマグロ
第八章 マグロ人気に陰り・サーモンが台頭
〇当初は「日本では無理」と門前払い〇回転寿司やスーパーのマグロはおいしいかetc.
第九章 おいしいマグロが食べたい!
〇冷凍マグロのおいしい解凍法とは〇血合いには赤身の100倍のセレノネインがetc.
第十章 大衆魚の利用が水産業復権のカギ
〇獲れる魚を食べられるように〇小サバのうまい食べ方とは?etc.
第十一章 漁師の減少を食い止めよう
〇10年前の3割減〇各地で続々、女性漁師が誕生etc.