原作者・谷口菜津子氏が語っていた言葉

同作の主人公・海老原勝男(竹内涼真)は、超ハイスペでありながら古い価値観のまま30代を迎え、プロポーズした途端に恋人・鮎美(夏帆)から別れを告げられる。勝男は鮎美への思いを引きずりながらも、料理を通して初めて自分の弱さと向き合い、少しずつ変わり始める。一方の鮎美も「自分が信じ込んでいた“良い女性像”」を手放し、本当の自分へと変わっていく。

最終回では、この二人がどんな選択をするのかが注目されている。

同作が国民的な広がりを持てた理由のひとつは、勝男と鮎美の関係や考え方が、現代の価値観の揺らぎそのものを体現していた点だ。勝男は古い価値観に縛られ、鮎美は“正しい女性像”を演じ続けて疲れ果てた。しかし、どちらも“間違っている”わけでも、悪者でもない。

主演の夏帆(左)と竹内涼真(「じゃあ、あんたが作ってみろよ」公式X@antaga_tbsより)
主演の夏帆(左)と竹内涼真(「じゃあ、あんたが作ってみろよ」公式X@antaga_tbsより)

原作者・谷口菜津子氏は、昨年2月に本サイトの取材でこう語っている。

「勝男と鮎美は『これまで』の形式での『幸せになるためのモデルケース』を意識し過ぎて、“本当の自分”を忘れてしまった2人です」

令和になって価値観が変わりつつあっても、昭和〜平成の“理想像”とされてきたテンプレートから逃れられず、「正しいはずなのに幸せじゃない」という矛盾を抱える人は多い。勝男と鮎美は、その“揺れ”を可視化した存在だ。

SNSで「わかる」と共感が広がり、大きなうねりを生んだのは、この“誰も悪くない世界”が多くの視聴者の感情を代弁していたからだろう。

もちろん、時代の価値観と向き合うドラマは今に始まったことではない。むしろここ数年のトレンドとも言えるテーマだし、構造だけを見れば本作もその系譜に位置づけられる。それでも、なぜこのドラマが“突出して”爆発したのか。その答えこそが、もっとも語られるべきポイントだろう。