ほかのドラマと決定的に違っていたポイント

本作が爆発的に支持された理由は、何より“笑えた”からだ。

ジェンダー作品は、ともすると“論”になりがちで、視聴者が「どちらの立場につくべきか」を迫られる。しかし本作はその真逆。語らず、教えず、ただ勝男の日常のドタバタを置く。そして注目すべきは、勝男は“弱者”でも“悲劇の人物”でもなく、ただ“自分の正解が通用しない世界”に戸惑う普通の、いや、どちらかといえば強い男だ。

こうしたキャラクターについて、谷口氏はこう語っている。

「『壁にぶち当たるハイスペ』を作ろうと思って生まれたんです。」
「人生って、勉強だけじゃどうにもならないことが多すぎて……。」

勝男は毎週のように“勉強では解けない問題”にぶつかる。自分の答えを否定され、主張し、それでもまた否定される。少し飲み込んで悔しがり、また歩く――その小さな前進が、視聴者には“希望”に見えた。

勝男が筑前煮に挑んだ第1話から大盛り上がり(「じゃあ、あんたが作ってみろよ」公式X@antaga_tbsより)
勝男が筑前煮に挑んだ第1話から大盛り上がり(「じゃあ、あんたが作ってみろよ」公式X@antaga_tbsより)

重くならず、攻撃的にならず、笑って見られる。現代人が“避けずに語れる”ジェンダー作品として成立している点は、極めて大きい。

SNSではここ数年、ジェンダー論がバズるたびに、男女・世代の対立が強まり、正解のない論争で傷を増やす光景が繰り返されてきた。だが勝男は違う。

一度は否定しながらも受け入れ、よさを認識する。だから彼は常に、男性側から見れば「気持ちは分かる」と思える部分があり、女性側から見れば「そこがズレてる」と突っ込みたくなる部分がある。

その結果、勝男はどちらの陣営の味方にもなり、同時に反面教師にもなるという不思議な立ち位置を獲得した。

谷口氏は彼をこう位置づける

「『反省できる人』にしたいな、と。」

勝男は成長するが、いきなり完璧にはならず、またすぐズレる。この“変化の不完全さ”が圧倒的なリアリティを持っていた。