大相撲が変えていくべき点、変えてはいけない点

――藤井さんというと「大相撲」と思ってしまいますが、オリンピックでは競泳、柔道、マラソンなど、たくさんの名場面に立ち合われてきています。マラソンの有森裕子選手の「自分で自分を褒めたい」などの名言を引き出してもいらっしゃいますよね。そうした他のスポーツと大相撲では、アナウンサーとして携わるときの違いはありますか?

大相撲はとくに歴史を勉強する必要がありますよね。古事記や日本書紀に相撲のルーツと思われる記述があり、江戸時代には今の大相撲のような形になった。そこから時代時代で改良を加えられ、観る者が楽しめるように工夫されてきている。文献などを開いて自分なりに調べていくと、どんどん興味が湧いてきます。

そこに、文献では到底調べられないようなことを体験してきた北の富士さんという人が現れた。生きる文献、大辞典ですよ。そういう貴重な話をたくさんいただいて、ますます相撲が面白くなったし、そういうことを観ている方に少しでも伝えたいと思いました。

――時代に合わせて工夫され、少しずつ大相撲の世界も変わってきていると思いますが、今の大相撲について思うことはありますか?

怪我が多すぎますよね。北の富士さんもよくおっしゃってましたが、体が大きくなりすぎているのも一因でしょう。怪我や病気の少ない世界にしようという方向にもっと力を入れてほしいです。そうすると相撲の中身ももっと面白くなる。100キロそこそこの力士同士が組み合って、なかなか決着がつかないような、そんな白熱する相撲が増えるといいなと思うんですよ。今はバンッと当たって、引かれたらバッタリ前に倒れて終わりでしょう。SNSやグッズといった新しい若いファンに向けての工夫も大事ですけど、まずは相撲の中身で勝負しましょうよ、と。

大相撲も時代に合わせて変えるべき点と変えてはいけない点があると思うんです。変えるべきでないのは、観客のマナー。最近、立ち合いのときに大声を出したり、手拍子をしたり、目に余る場面があるでしょう。新しく相撲ファンになって、観戦時のルールを知らないのかもしれないけれど、立ち合いにどれだけ力士が集中するか、そこで変な掛け声がかかることによって力士にどれだけ不利益が生じるか、観戦する側も考えなければいけませんよね。

――そうした観客のマナーがたびたび話題になる一方、今年は豊昇龍と大の里の新横綱2人、安青錦の新大関1人が誕生しました。その他の若手の台頭もあり、新しい波を感じる1年だったと思いますが、来年はどうなっていくと予想しますか?

大の里が九州場所で怪我をしてしまったというのが不安ではあるんですけど、大の里という力士は大きな怪我がない限り、これからの相撲界の中心になるのはもう間違いないと思うんですよね。

そこに加えて、豊昇龍も本当に頑張ったんですよ。休場もあり、横綱としての優勝も今年はお預けのままになってしまいましたけど、横綱らしい成績の安定感も出てきている。大の里と体格や相撲の取り口が対照的であるからいいんですよね。

そこに安青錦という新星、21歳の大関が誕生したわけです。この力士は今の大相撲には少ない、前傾姿勢がしっかりと取れた相撲を取ります。先ほども話しましたけど、今は押して、はたいて、バタッと落ちて決まるという相撲がものすごく多いですよね。でも安青錦は、はたいても落ちない。他の力士は体に染みついているというか、「押してダメなら、はたけば何とかなる」と条件反射ではたいてしまうんですね。それは安青錦にとってはラッキーなんですよ。彼がここまで順調にこられたのは、そうしたまわりの状況も大きいと思います。もちろん、彼も熱心にいろんな技を研究して、勉強してきていますけど。来場所以降、まわりも安青錦を研究してきますから、試練はこれからでしょうね。

あと安青錦は今の力士の中では体が小さいですから、そこが一番不安なところです。大きな相手と当たって、怪我をしてしまわないか。今、負けている相撲は体の大きさで吹っ飛ばされることが多いですけど、でも安易に重量化もしてほしくいない。なんとか今の体格で、今の相撲を貫いて勝っていってほしいですよね。三人横綱なんて、いいじゃないですか。

――次に横綱になるのは、琴櫻ではなく、安青錦とお考えですね。

琴櫻は少し足踏みが続いてしまっていますからね。若い元気な大関がもう何人かほしいですね。

――そうなると、来年の大相撲はさらに盛り上がっていきそうですね。まだ相撲をあまり見たことがないという方に向けて、どんな見方をすれば楽しめるか、アドバイスはありますか?

先物買いが一番ですよね。いま私も実況担当をしている『ABEMA』では場所中、序ノ口の取組から生中継していますから、時間のあるときにでも観ていただいて。下の番付の中で気になる力士を見つけたら、もうバッチリです。顔がカッコいいでも、細いのに頑張っているでも、弱すぎるでもなんでもいいんですよ。その力士を追っていくだけで面白いと思います。

あとは部屋単位で応援してもいいですね。今、45の部屋があるんですけど、YouTubeの動画配信など、それぞれの部屋の個性がわかるようになっています。それこそ、YouTubeでは番付が下の力士が活躍しているので、先物買いするにもいいと思いますね。

それと大相撲は「ふるさと」がついてくるんです。土俵に上がる際は場内放送で「〇〇県〇〇市出身」と出身地が詳しく紹介されます。これは他の競技にはない、大相撲ならではのところ。自分と同郷の力士を応援するのも、いいものですよ。

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2024年11月12日、82歳での別れから1年。
「第52代横綱」として、「千代の富士と北勝海、2人の名横綱を育てた九重親方」として、「NHK大相撲中継の名解説者」として、昭和・平成・令和と3代にわたり、土俵と人を愛し続けた北の富士勝昭。

大相撲中継で約25年間タッグを組んだ、元NHKアナウンサーである著者が書き残していた取材メモや資料、放送でのやりとりやインタビューなどを中心に、妹さん、親友、行きつけの居酒屋の店主など、素顔の故人を知る人物にも新規取材。「昭和の粋人」、北の富士勝昭の魅力あふれる生涯と言葉を、書き残すノンフィクション。

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取材・構成/秦まゆな 撮影/露木聡子
※「よみタイ」2025年12月7日配信記事

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