マクドナルドのコーヒーは何が違うのか?
危機に陥った日本マクドナルドでしたが、地道に信頼を回復するための手を打ち続け、2016年頃には業績も回復。再びコーヒーの品質改善に取り組みたいということで、ありがたいことに私に声がかかりました。
私がコンサルティングをする際は、まず現場に張りついてこの目で見ることから始めます。お客さんがどういうふうにコーヒーを飲んでいるか観察するところからスタートするのです。
マクドナルドの場合、現場を見る前は、お客さんはコーヒーを単体で飲むか、アップルパイなどの甘いものとペアリングして飲むかの2パターンが多いのではないかと思っていました。
ところが違いました。一番多いのはセットメニューでコーヒーを選ぶケースだったのです。マックでコーヒーを楽しむ人からすれば当たり前のことかもしれませんが、コーヒーの常識からはなかなか考えられないコンビネーションです。ということは、ハンバーガーやポテトを食べながら同時に楽しめるコーヒーにする必要があります。
次に多いのが、これは予想どおりですが、コーヒー単体でゆっくり過ごすお客さんでした。本を読むなどして比較的長い時間滞在しています。
これはコンビニコーヒーとはまったく違うところです。よって、味の設計はコンビニコーヒーと違うものになるはずです。時間が経っても味の変化が少なく、冷めても美味しいコーヒーであることが重要になります。
何度もいってきたように、味は主観的なものです。好みによって選択が変わるため、基本的には「どれが一番美味しいか」というのは難しい問題です。
もし私がマクドナルドの100円コーヒーを監修した際、手を抜いて、マクドナルド側の試作品をその場で飲んで「一番美味しいコーヒー」を決めていたらどうなっていたでしょうか。
おそらく、その「一番美味しいコーヒー」は「井崎英典にとって一番美味しいコーヒー」でしかなく、「マクドナルドユーザーが求めているコーヒー」ではなかったでしょう。
マクドナルドやコンビニチェーン各社のコーヒーの違いを比較して、優劣をつけているインフルエンサーなどもいますが、私にいわせればナンセンスです。それぞれの客層や企業側の狙いに合わせた、それぞれのバリューがあるのです。マクドナルドの場合は、ハンバーガーとポテトに合い、冷めても比較的味が落ちないコーヒーが必要でした。詳しくは伏せますが、さらにほかにも重視すべきバリューを洗い出して、開発は進みました。
結果的に、マクドナルドのコーヒーは劇的に変わりました。100円プレミアムコーヒーのシェアを大きく奪い返し、成功したのです。
コンビニコーヒーとマクドナルドのコーヒー、どちらが美味しいかということではなく、それぞれに合ったコーヒーがあり、きちんと価値を出せれば結果がついてくるのです。
もちろん、突き抜けたセンスがヒットを飛ばすこともあるでしょうが、基本的には、あらゆる商品・サービスの開発は、市場研究から入るべき、というのがビジネスの前提となる考え方です。
ヒットには理由があり、その理由を事前に仮説として立てるのがあるべき筋道です。













