今の選手たちは「巨人一辺倒」ではない
巨人にFA移籍する選手が減った理由のもう一つは、「選手の考え方が『巨人一辺倒』ではない」ということだ。
今の選手たちは、「巨人にいくことが幸せだとは限らない」と考えている節がある。巨人にFA移籍すれば、前所属チームの練習パートナーが一緒に移籍することを許されるケースもあるそうだし、引退後の雇用までしてくれる話も耳にする。
ただし、これらの条件が決め手になるとは限らない。かつてのように長めの複数年契約や高年俸のみを優先するのではなく、「自分の実力を発揮しやすいチーム」を、冷静に見極めて選ぶケースが増えているのではないか。
その典型が先に挙げた2023年オフの山﨑だ。彼がFA宣言をしたとき、交渉のテーブルについたのは、巨人を含めた6球団だったが、最終的には日本ハムを選んだ。
記者会見で日本ハムを選んだ理由を問われた山﨑は、いくつかの要素を挙げていたが、そのなかで印象的な発言を残している。
「日本ハムというチームは、これから成長していく球団で、一緒に投手として完成していこうという言葉をかけてもらったから」
日本ハムとは「4年総額10億円」でまとまったが、金銭面だけでいえば、もっといいチームがあったとのことだ。投手ながら打撃の得意な山﨑にしてみれば、高校、大学時代を過ごした「在京のセ・リーグ」という選択肢もあったはずだ。しかし、最終的には日本ハム入りを果たした。
ひと昔前は「人気のセ、実力のパ」というのが共通認識だった。今は一転して「人気、実力ともにパ」の時代になったともいえるし、「何が何でも巨人」という流れはとうに過ぎ去ってしまった。
「長く野球をやるには巨人以外を選択する」という考え方
さらに山﨑はこんな発言もしている。
「僕自身、長く野球をやりたいという夢があり、それが可能なのは日本ハムだと思ったんです」
これを聞いて、「人気球団で注目されながら野球をする環境を、今の若い人たちは望まないのではないか」と感じた。けれども、このような若者の気質の変化を私は否定するつもりはない。むしろ、そうした考え方もあっていいんじゃないかとさえ思っている。
今は1990年代、2000年代前半のころのように、巨人の全試合が地上波の全国ネットで放映されるような時代ではない。地方に行けば、地元球団の試合が放映されている。
若い選手たちからすると「巨人が特別なチームである」といった意識は、年を追うごとに希薄になり続けているようだ。
こうした状況のなかでは、将来有望な選手を見極め、育成する力量が備わっているかが大いに問われる。巨人のフロントは、「FA=巨人」「プロ野球人気=巨人」という時代ではないことを念頭に置き、どういった球団運営をしていくべきか熟慮すべきだろう。













