「長嶋さんと同じユニフォームを着たい」とは思わない…今、国内トップ選手がFAで巨人を選ばない3つの理由〈エモヤンが語る〉
近年、プロ野球の国内トップレベルの選手がFA移籍先として巨人を選ばなくなりつつある。FA市場での存在感低下、MLB挑戦の加速、価値観の多様化——その背景には、絶対的な存在、長嶋茂雄という“象徴”の求心力が希薄になっていることもあるとエモヤンは断言する。
「巨人離れは偶然ではない」と言う球界のご意見番・江本孟紀氏の新刊『長嶋亡きあとの巨人軍』より一部抜粋・再構成してお届けする。
長嶋亡きあとの巨人軍#2
もし私が長嶋さんから巨人入りを誘われたら……
私の現役時代にはFA制度がなかったが、もし1970年代にFA制度が導入されていたとしよう。私が権利を得た際、長嶋さんに巨人入りを誘われていたら、どうなっていただろうか。
今のFA制度は、「大学・社会人出身者の場合は145日以上の一軍登録者であれば7シーズンで取得できる」という規定がある。これに照らし合わせてみたい。仮に、1978年のシーズン途中には取得できる。このシーズン終了時点までで、南海、阪神時代を通算して8年連続2ケタ勝利を挙げている。心技体がピークを迎えていると自他ともに認めるタイミングで、長嶋さんからのお誘いだ。
「エモやん、ジャイアンツで一緒に野球をやろう」
どう考えても断る理由が一つもない。
「はい、喜んで行きます。よろしくお願いします」
二つ返事で巨人に行っていたと断言できる。
もし巨人入団のオファーがあれば喜んで行っていたという江本孟紀氏(写真/集英社オンライン)
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ただし、この年のオフはいわく付きといえよう。なぜなら、あの「江川事件」があった年だからだ。江川卓の入団先を巡る一連の騒動は、巨人がドラフトをボイコットするなど、前代未聞の事態に発展。野球界のみならず、日本列島を巻き込む台風の目のようになっていた。
その最中に私が巨人に入るわけだ。無論、「阪神に対する裏切り行為」と受け取られ、阪神ファンからの執拗なバッシングを覚悟する必要があったはずだ。
けれども、結局のところ私も落合同様、「長嶋さんと同じユニフォームを着てプレーすることの喜び」のほうが勝っていただろう。
文/江本孟紀 写真/shutterstock
2025年11月1日
1,045円(税込)
200ページ
ISBN: 978-4594101572
長嶋さん亡きあと、野球界、とりわけ巨人の行く末は厳しいものになるんじゃないのか。
2025年はそう悲観的にならざるを得ない1年だったように思える。
そこで本書では、長嶋さん亡きあとの巨人について、野球界の動向と重ね合わせながらお伝えしていければと思い、筆をとった。
主力打者が不振にあえぐ際には長嶋さんの力を借りて打撃指導を行ったり、チーム状況が思わしくないときにも長嶋さんを呼んで檄を飛ばしてもらったりもしたが、当然ながらこれからは一切できない。
巨人が抱えている課題は何なのか。さらには球界全体ではびこる諸問題にも、躊躇せず切り込んでいきたい。
長年野球界を見続けてきた解説者の視点で、日本野球をどう改善していけばいいのか、あますことなく述べるつもりだ。
巨人にとって、あるいは球界全体にとって、少しでも参考になれば、この上ない幸せである。
江本孟紀 (本書「はじめに」より)
【本書の内容】
第1章 東京ドームに「閑古鳥が鳴く日」がやってくる!?
第2章 1990年代の巨人に大物選手が次々とFAでやってきた、本当の理由
第3章 巨人の魅力がなくなった理由。私はこう考える
第4章 甲斐拓也は巨人にとって必要だったのか
第5章 阿部慎之助は名将となり得るのか
第6章 長嶋さん亡きあと、球界を盛り上げるだろう、3人の元メジャーリーガーたち
第7章 長嶋さん亡きあとの、巨人と野球界のこれから