さらに信じがたい生還劇が存在

男性は空手の経験者だった。クマの顔面を目掛け、右足で蹴りを放った。クマは2頭とも立ち去った。男性自身も、蹴った際の衝撃で足の甲を痛めた。「人間と違って、当たった感触はありますが硬すぎて、自分が攻撃しているのに攻撃している自分がダメージくらった感じでした」。

クマの頭蓋骨の硬さを実感しながらも、彼は生還した。恐ろしいのは、男性がクマを撃退した後、自ら車を運転して目的地であった「比翼の滝」を見学し、その後に警察へ通報している点だ。

空手という個人の「スキル」が、絶望的な状況を覆した稀有な例である。この冷静さと鍛錬された技術は、ささやかな称賛に値する。

日本国内だけでなく、海外に目を向ければ、さらに信じがたい生還劇が存在する。それらの事例は、我々日本人がクマという脅威に対してどのような心構えを持つべきか、痛烈な教訓を与えてくれる。

クマに襲われ「投げ返した」青森のラーメン店員、「頭突き」で撃退した80歳老人…クマサバイバーたちの驚きの共通行動_2

老人を崖から突き落とす激怒したクマ

例えば、少し古いが2013年、ロシアでは80歳の羊飼いの老人が、ラズベリー畑で飢えたヒグマに遭遇した。高齢者が巨大な肉食獣と対峙する。結末は誰の目にも明らかに見える。

しかし、老人は諦めなかった。彼は年齢をものともせず、クマに対してキックと、なんと「頭突き」を浴びせたのだ。そのときの模様をガーディアン紙が報じている。

この予期せぬ老人の激しい抵抗に、クマは体勢を崩した。激怒したクマは、老人を崖から突き落とし、その場を去った。

老人は肋骨4本を折るなどの重傷を負ったが、食い殺されるという最悪の事態は免れた。彼は後に「怖気づいていたら、私は殺されていただろう」と語っている。

また、アメリカ・ワイオミング州では、二人の若いレスラーがグリズリー(ハイイログマ)に襲われた(ESPN、2023年)。一人がまず襲われ、約27メートルも吹き飛ばされた。致命的な状況である。

それを見たもう一人は、逃げなかった。彼は助けを呼ぶでもなく、あろうことか、友人を救うためにクマの背中に飛び乗った。

クマは当然、ターゲットを背中の人物に変更した。彼はクマに地面に叩きつけられ、顔面を何度も噛まれた。頭部に60針を縫う重傷を負いながらも、彼は友人の命を救い、二人とも生還を果たした。

彼は「友人が殺されるのを見て逃げるよりは、死んだ方がましだった」と証言している。