インフレを好機とみて、プロの投資家は家賃上昇に積極的

都心の好立地に物件を持つBさんのような大家にとっては、賃料を引き上げた上で再募集することも視野に、強気の引き上げを提案することが投資家としての最適解となっているのだ。

家賃の引き上げを目論んでいるのはBさんのような個人の大家だけではない。賃貸住宅を運用するREITとしては日本最大級のアドバンス・レジデンス投資法人はポートフォリオの25年7月期の入替賃料変動率が16.2%増と、過去最高を記録したと発表した。

決算説明会では「当社の方針として、賃料上昇に積極的に取り組んでいる」と明言。インフレを好機とみて、プロの投資家が積極的な家賃上昇に取り組んでいるのだ。

エリア全体の賃料が上昇し「家賃を引き上げなければ損」という雰囲気が漂っていることに加え、引っ越し料金が上昇していることも大家を強気にさせている。

都内では現在、人手不足により引越料金も高騰しており、特に更新期が集中する春や秋の繁忙期では都内の引っ越しでも数十万円かかるということが当たり前となっている。

引っ越しをしたくても、高額な見積もり料金をみて諦めるという例も増えている。借り手側は足元を見られた上で家賃の引き上げを迫られている状況だ。

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シンプルに家賃の引き上げを拒否することはできる

こうした状況下、家を借りている人に対抗策はあるのか。もっともシンプルな手法は、家賃の引き上げを拒否するという手段だ。日本は借地借家法という法律があり、家賃の増額は貸主と借主双方の同意が必要となっている。

100年以上前に制定された借主を保護するための仕組みが現在にも続いており、世界的に見ても借り手に優位な仕組みとなっている。オーナー側が家賃の増額を求めたところで、借主がそれを呑まない限り、一方的な値上げは成立しない。

家賃の引き上げを拒否して、これまで通りの家賃を払えば契約は継続され、無理やり追い出されるということはない。

しかし、これには留意が必要だ。一方的な値上げは成立しないといっても、近隣相場に比べて明らかに割安だった場合、大家は法的手段に出ることができる。具体的には、簡易裁判所に賃料増額調停を申し立てることになる。こうなると、借り手側は苦しくなる。