白昼の街を恐怖のどん底に突き落としたロシアのヒグマ
森という巨大な食料庫を破壊され、住処を追われたクマが、人間の街という“コンビニエンスストア”に食料を求めてやってくるのは、ある意味で自然な摂理だ。
現在のクマ問題は、過去の我々の行動が生み出した、一種の因果応報なのである。人間が自然を意のままにできるという傲慢な考えは、ここで終わらせなければならない。
この野生動物との境界線が完全に破壊され、剥き出しの暴力として噴出した時、どのような惨劇が待っているのか。その答えを、我々はロシア極東の都市で見ることになる。
ロシア極東、カムチャツカ半島の都市ペトロパブロフスク・カムチャツキーで、2025年9月25日、一頭のヒグマが市街地に侵入し、住民を次々と襲うという戦慄の事件が起きた。このヒグマの行動は「暴走」と報じられるにふさわしい凶暴さで、白昼の街を恐怖のどん底に突き落とした。
最初の犠牲者は、市の中心部に近いスポーツフィールドで襲われた84歳の女性であった。幼稚園のすぐそばという、平和であるべき場所で起きた惨劇である。ヒグマは女性に襲いかかり、その頭皮を剥ぐという、およそ想像を絶する残虐な方法で致命傷を与えた。
女性は集中治療室へ緊急搬送されたが、地元保健省が「生命に適合しない傷」と発表した通り、その命を救うことはできなかった。野生動物が振るう暴力の、あまりに一方的で無慈悲な現実が、この老女の死によって突きつけられた。
「死んだぶり」でどうにかしたロシアの少年
ヒグマの暴走は止まらない。次に狙われたのは、オケアンスカヤ通りでスポーツセンターの近くにいた12歳の少年だ。ヒグマは少年に執拗に迫り、少年は必死に逃げた。
ヒグマは少年の背負っていたバックパックに襲いかかり、その衝撃で少年は転倒。こめかみと膝に傷を負った。しかし、この少年は極限の恐怖の中で驚くべき冷静さを見せる。
「死んだふり」をしたのである。痛みと恐怖に耐え、身じろぎもせず横たわる少年の上で、ヒグマは興味を失ったのか、やがてその場を立ち去った。少年は自らの知恵と勇気で九死に一生を得たが、その心身に刻まれた傷は計り知れない。
さらに、市内の駐車場では、一台の車に向かっていた男性がヒグマの標的となった。監視カメラの映像には、巨大なヒグマが猛然と男性に飛びかかる瞬間が記録されている。
男性はまさに紙一重で、近くにあったトヨタ・ハリアーの後部座席に飛び込み、ドアを閉めることに成功した。まさに「死を欺いた」奇跡的な脱出劇であった。車内に逃げ込んだ男性に対し、怒り狂ったヒグマはなおも攻撃を続けた。













