「何も起こらない物語を描く」 

――約40年前に山田太一脚本・檀ふみ主演で放送されたNHKドラマ『日本の面影』(小泉八雲とセツをモデルにした作品)がありますが、今回のドラマでは、そのドラマとの違いや配慮された部分はありますか?

小説『怪談』を世に出した偉人として小泉八雲と妻のセツを書く方法もあったと思うんですが、今作に関しては、2人の日常生活にスポットライトを当てています。第5週から小泉八雲をモデルにしたレフカダ・ヘブン(トミー・バストウ)が出てきますが、みなさんが思っているほど、怪談や禍事(まがごと)は出てこないと思います。

――ふじきさんは、今作のヒロインのモデルである小泉セツさんについて、「光でも影でもない部分に光を当てる作品を書きたい」と語っていました。史実に沿って書くうえで、特に難しかった点はありますか?

ヘブンが登場する第5週までは、ヒロイン・松野トキ(髙石あかり)の生い立ちは、史実に沿って書くと、どうしてもいろんなことが起こる物語になっていますが、僕としては“何も起こらない物語”を書きたいと思っています。セツさんの人生は波乱に満ちていて、そこを書かないわけにはいかないので書きましたが、トキがヘブンと出会う第5週以降は、ようやく「光でも影でもない部分に光を当てる」ことができていると思います。

――ふじきさん自身が『ばけばけ』のテーマや世界観に通じている部分はありますか?

ばけることを厭わない点でしょうか。それは良し悪しもありますが、「僕のやり方はこうだ」という頑固さはあまり持っていなくて。唯一、強くあるこだわりとしては、台詞やニュアンスの語尾は変えてほしくないなってところですかね。でもそれ以外で変更を依頼されたら、抵抗するよりも面白くする方法を考えたほうが早いなと思うタイプです。

ヘブンは小泉八雲をモデルにしている
ヘブンは小泉八雲をモデルにしている