ビートルズを敬愛していたノエルの不思議な出会い
そのころ、ノエルはサンフランシスコにいた。同地で公演した時に知り合った女性の家に居候していたのだ。
バンドを脱退しようとしていることをノエルが伝えると、その女性はノエルを落ち着かせようと、幼いころに遊んでいたという近所の公園に連れて行ってくれた。それから2人はストロベリー・レモネードを片手にショッピングをしたり、家でレコードを聴いたりしながら日々を過ごした。
数日後、ノエルの行方を探していたアボットが、彼女の家に電話をしてきた。ノエルが泊まっていたホテルの部屋の請求書を調べて、その電話番号を見つけたのだ。
ノエルと会って2人で話がしたいとアボットが伝えると、ノエルはそれに了承した。
ノエルとの面会を果たしたアボットは、「ラスベガスに行ってみないか」とノエルに持ち掛けた。そこならノエルも気分転換できるだろうし、誰にも邪魔されずに2人で話ができるだろうと考えたのだ。
カジノで楽しもうという誘いにノエルも乗り気になり、ノエルは女性に別れを告げ、ラスベガスへと向かった。
ラスベガスのカジノで、酒を飲みながらショウが始まるのを待っていると、40代くらいの女性がノエルたちのもとに近づいてきた。
「ちょっと失礼、あなたは本当にジョージ・ハリスンのイメージとダブるわね」
女性は今しがた結婚したばかりだそうで、夫を紹介するとともに、結婚の誓約書も見せてきた。
「でもジョージ・ハリスンとだったら、誓いを破って浮気してもいいわ。それにしても、あなたは本当にジョージに似てるわね」
婦人はビートルズの大ファンで、レコードは欠かさず購入し、コンサートにも何度も足を運んだという。ノエルもビートルズを敬愛していたこともあって、2人の話は弾んだ。
「あなたのお仕事は?」
「偶然だけど、俺もバンドをやっているんだ。だけど、今はやめちゃったようなもんなんだ」
別れ際に連絡先を交換すると、もしフィラデルフィアで演奏することがあれば連絡してほしいと婦人は告げた。その場に居合わせたにアボットによれば、この予期せぬ会話が、ノエルの心境に大きな変化をもたらしたという。
「ビートルズや、ビートルズの音楽を愛する気持ちを、世界中の人々と分かち合うことができる。彼にはそれをするための能力があるってことに気がついたんだ」
アボットがメンバーのいるスタジオのもとに戻ってみないかと提案すると、ノエルは「考えておくよ」と返答した。そして翌日、ノエルとアボットは飛行機でスタジオに向かい、メンバーとの和解を果たした。
ノエルはこのサンフランシスコとラスベガスでの日々の最中に、曲を書いている。それが『トーク・トゥナイト』。ノエルがお気に入りだという曲の一つだ。
歌の中では、サンフランシスコでの日々が描かれており、この歌に出てくる「君」のモデルは、サンフランシスコで日々を過ごした女性といわれている。
また、歌詞全体で見れば、カジノで出会った女性も影響しているという説もある。いずれにせよ、出会ったばかりの人たちとのほんのわずかな時間の中で、ノエルの気持ちが大きく救われたことを、この歌は証明しているのだ。
文/佐藤輝 編集/TAP the POP
参考・引用
『オアシス・ヒストリーブック「テイク・ミィ・ゼア」』ポール・メイサー著/前むつみ訳(音楽専科社)
『オアシス~ゲッティング・ハイ』パオロ・ヒューイット著/岡田まゆみ訳(リットーミュージック)













