新たな水準の「メディア・リテラシー」

筆者は「プラットフォーム資本主義」のはらむ問題が、プラットフォーム企業による収益追求の姿勢に起因することを否定するつもりはないし、かといってこれらの企業の肩をもつつもりもない。

しかし一方で、一般のユーザー自身が(個々人が意図せざる社会的な相互作用の結果として)プラットフォームやインターネットの技術をインフラ化し、そこで動作するアルゴリズムについてブラックボックス化して、それらの詳細を意識しないで済む社会を望んで構築してきた。そのような事実に気づくことは、単に企業を悪者扱いするより重要な視点ではないだろうか。

そしてそのインフラを可視化し、ブラックボックスを少しでも理解しようとすることに認知資源を割くことは、わたしたちの「稀少」とされるアテンションを振り向ける価値が十分にあることなのではないか、と考えている。

そこにアテンションを配分することは、アテンション・エコノミー環境そのものを相対化し、俯瞰的な視点を獲得することにつながるからである。フィルターバブルやエコーチェンバー、偽情報・誤情報やステマなど、それを可能にするメカニズムを俯瞰的な視点で客観視できる人が増えていけば、(すぐに解決にはいたらないとしても)その弊害を軽減できる可能性があるはずだ。

もちろんプラットフォーム企業の側も、アルゴリズムの内部構造を含めて、開発者・設計者が自社の利益確保のために自らそれを隠蔽するようなブラックボックス化は、なるべく避けるべきだと筆者は考えている。

OSSのコミュニティのように、一定の専門性をもち、かつ特定の企業との利害関係とは異なる視点から、アルゴリズムの改善や改良を進めることは実際に可能であることが示されているし、インターネットのような公共財をまさに公共的なものとして維持するためには、もっと活用されるべき方法論であろう。

特に大規模で多くのユーザーが利用するシステムであればなおさら、そのサービスを提供する社会的責任を果たすという意味で、単に自社利益への最適化にとどまらず公共的な観点を踏まえたバランスを保っていく不断の努力がより一層求められる。

インターネットは基本的に「オープン」であることを自覚しているだろうか…「無意識の信頼」がアルゴリズムをブラックボックスに_3
すべての画像を見る

そしてそれにはユーザー側からの、アルゴリズムをブラックボックス化させないような社会的な圧力をかけ続けるアプローチも欠かせない。アルゴリズムの現状に対して批判的に読み解き、さらにはそのあり方に対して異議申し立てや提言ができるような、新たな水準の「メディア・リテラシー」が求められているのである。

アルゴリズム・AIを疑う 誰がブラックボックスをつくるのか
宇田川敦史
アルゴリズム・AIを疑う 誰がブラックボックスをつくるのか
2025年5月16日発売
1,100円(税込)
新書判/240ページ
ISBN: 978-4-08-721363-8

【【続々重版!!】】

★☆★☆各メディアで紹介★☆★☆
2025.7.1聖教新聞にて書評掲載「狭まれた“主体的選択”の余地」
2025.7.5日本経済新聞にて書評掲載「現代必須〈教養〉の入門書」
2025.7.18読売新聞にて書評掲載「ソフト動かす原理解説」
2025.7.19毎日新聞の「今週の本棚」にて書評掲載
2025.8.1新刊ビジネス書の要約『TOPPOINT(トップポイント)』にて書籍紹介
2025.8.15 Lucky FM茨城放送「ダイバーシティニュース」

■内容紹介■
生成AIを筆頭に新しい技術の進歩は増すばかりの昨今。SNSや検索エンジンなどの情報は「アルゴリズム」によって選別されている。しかし私たちはそのしくみを知らないままで利用していることも多い。アルゴリズムを紐解くことは、偏った情報摂取に気づき、主体的にメディアを利用する第一歩なのである。
本書は、アマゾンや食べログなどを例に、デジタル・メディアやAIのしくみを解説。ブラックボックス化している内部構造への想像力を高めることを通じて、アルゴリズム・AIを疑うための視点を提示する。メディア・リテラシーのアップデートを図る書。

■目次■
第1章 アルゴリズムとは
アルゴリズムの日常性、基本構造、AIとの違い‥‥‥

第2章 アルゴリズムの実際
グーグルのランキング、アマゾンのレコメンド、食べログのレビュー・スコアリング、Xのタイムライン表示アルゴリズム‥‥‥

第3章 アルゴリズムと社会問題
認知資源を奪い合う、 情報選別の権力となる、マーケティング装置、偽情報・誤情報を拡散する、ユーザーを商品化するアルゴリズム‥‥‥

第4章 アルゴリズムとブラックボックス
ブラックボックスとは、誰がブラックボックスをつくるのか、アルゴリズムの公開は可能か‥‥‥

第5章 アルゴリズムのメディア・リテラシー
メディア・リテラシーとは、メディア・インフラ・リテラシーの可能性、アルゴリズムを相対化する視座‥‥‥

amazon 楽天ブックス セブンネット 紀伊國屋書店 ヨドバシ・ドット・コム Honya Club HMV&BOOKS e-hon