アルゴリズムをブラックボックスにしているもの

また、OSSはインターネットでもっともよく使われるWWWの基本的なしくみにも利用されている。ウェブページを配信するウェブサーバーとしてもっとも広く利用されているのはApacheHTTPサーバーというソフトウェアである。

ApacheはOSSとして開発されソースコードが公開されているため、機能拡張が容易であり、実際さまざまな開発者によってモジュールが追加されることで、より多くの機能が実現できるようになっている。

さらに、このようなウェブサーバー上で動作するアプリケーションの多くは、データベースソフトを利用しているが、MySQLとよばれるOSSのデータベース管理ソフトは、中小規模の企業や組織を中心に多くのシステムで利用されており、やはりソースコードの共有によって機能拡張や改善が続けられている。

OSSの実装事例としてもっとも有名なのは、WWWやデータベースなどの主にサーバー側のOS(オペレーティング・システム)として採用されることの多いリナックスだろう。

このリナックスは、インターネットの基盤となるサーバーのOSとしてさまざまな企業や組織で利用されているだけではない。現在のスマートフォンのOSのひとつであるアンドロイドOSは、このリナックスの基本モジュールを拡張して開発されたOSSとなっている。

現在はグーグルが所有しているアンドロイドOSだが、そのアルゴリズムは秘匿されているわけではなく、オープンソースとして公開されているのである。

このように、現在のインターネットやプラットフォームを実現しているアルゴリズムは、実際にはすべてが非公開になっているわけではなく、むしろその基本的なしくみのほとんどはOSSによって公開・共有されたソースコードによって支えられている。

検索エンジンのランキング・アルゴリズムを非公開にしているグーグルも、スマートフォンの基盤となるアンドロイドOSは公開にしていたり、先に述べたとおり、Xもそのタイムラインの一部のアルゴリズムについては一定の公開をしたりしている。

写真はイメージです 写真/Shutterstock
写真はイメージです 写真/Shutterstock

では一般のユーザーの視点からはこの状況はどうみえているのだろうか。このように、インターネットを支える基本的なシステムや、スマートフォンのOSや、SNSのタイムラインなどのアルゴリズムが、(部分的であるとはいえ)公開され、誰でもその気になればその処理内容を知ることができるという事実を意識している人はどのくらいいるだろうか。

おそらく多くの人は、インターネットやプラットフォームのしくみにどのようなものがあり、それらの何が公開されていて何が非公開なのか、あまり具体的に考えたことがないのではないだろうか。

それは、アテンション・エコノミー環境においてある意味当然の帰結といえるだろう。まさしく、システムが何の不具合もなく成功裡に動作していると信じられることによって、その内部構造は意識しなくて済むものになり、場合によってはそのようなシステムが介在していること自体もアテンションを払う対象に含まれなくなる、ということなのだ。

これこそが、インターネットを含むデジタル・メディアのインフラ化であり、アルゴリズムの社会的なブラックボックス化である。アルゴリズムをブラックボックスにしているのは、むしろそこに認知資源を割く必要がないという社会的状況であって、プラットフォーム企業による「隠蔽」や「独占」の意図だけではないのだ。