区民葬の減額分を会社に全負担させてきた行政

東京都で6か所の火葬場を運営しているのがプライム市場に上場する広済堂ホールディングスの子会社、東京博善だ。

公営の「臨海斎場」(大田区)と「瑞江葬儀所」(江戸川区)は、対象の区民であれば火葬料金は4万4000円と5万9600円だ。一方、東京博善が運営する6施設は9万円である。さらに、今年8月には東京博善は区民葬の取り扱いを終了すると宣言した。

区民葬とは葬儀費用負担軽減を目的として、9万円の火葬料金を5万9600円で実施するというものだ。もともとは生活困窮者や低所得者向けにスタートしたが、葬儀を行なう親族が23区在住の場合、所得に関係なく利用できるのが特徴だ。

東京博善は2021年に10年ぶりの値上げを実施し、普通炉が5万9000円から7万5000円になり、その後、燃料サーチャージ制度を導入して8万円台の変動料金に。2024年に入って9万円に固定されている。4年ほどで3万円以上引き上げられたわけだ。

東京都は火葬料金高騰を問題視しており、2025年の東京都議選の隠れた争点としても注目されていた。国民民主党の候補者がSNSに外資参入に対する危機感を表明したほか、日本共産党は政策に火葬料の引き下げを盛り込んだ。

このように料金を問題視する声ばかりが聞こえてくるが、法整備が進んでいないことがそもそもの問題であるように見える。

2026年3月31日までは現行どおり区民葬が利用可能だが…
2026年3月31日までは現行どおり区民葬が利用可能だが…
すべての画像を見る

 例えば、東京博善が終了するという区民葬に特別な審査は設けられていない。従って、低所得者の負担軽減という存在意義そのものが揺らいでいるのだ。しかも、取り扱えるのは全東京葬祭業協同組合連合会に加盟している葬儀社のみ。区民葬を希望しても、葬儀社によっては利用できないという不公平な制度になっている。

それに加え、東京博善は区民葬の減額分を会社が全負担してきた。行政は民間企業の善意に任せて、この問題を長年放置してきたのだ。その善意を裏切るかのように、料金高騰を何とかしろと言っているようなものである。