教わり続けることに必要な才能とは

しかし結婚、出産を経て坂下千里子はさらなるモデルチェンジを図る。それが現在まで続く「教わり役」を軸に据えた第三ステージである。

2010年代に入ってからの千里子は、とにかく何かを教わっている。
先述の池上彰の一連の番組もそうだが、2012年〜2015年に「おとなの基礎英語」、2015年〜2021年には「これでわかった!世界のいま」と、いずれも専門家に教えを乞う役割でテレビ出演している。

冒頭、フジテレビでは彼女の池上番組への出演は減っているという話をしたが、実はその分林修の番組には高頻度で出るようになっている(池上・林修反比例の法則)。様々な場所で千里子は教わり続けているのである。

本人がインタビューで語ったところでいえば、やはり出産・育児を経て大きな意識変化があったようだ。子を持つようになって社会や政治への関心が強まり、10代で芸能界に入り、思うように出来なかった勉強への意欲がふつふつと湧いてきたというわけである。つまりこの教養番組シフトは年齢と共になんとなくそうなったのではなく、意図的にそうしていたのである。

しかし本人がそれをやりたいからといってできるわけではないのが芸能界。視聴者や番組プロデューサーなど求める人がいなければ退場させられてしまう。ではなぜ千里子は今も教わり続けられているのだろうか。

おそらくそれは、良い意味で成長しないということなのだと思う。「良い意味で」とつければなんでも言って良いと聞いたのでこのようなことを言っているのだが、これだけ教わっているのに、千里子が何かを身につけたり、何かに詳しくなったりしている気配がない。好奇心旺盛な小学生が初めてそれを聞いたかのようなリアクションを、計算なしで常にできるのはある種の才能である。

多分、多少なり予習はしていたりするのだろう。しかし坂下千里子には常に圧倒的な丸腰感が漂う。知らないことを素直に聞き、感心し、そして何事も学ばなかったかのように、また新鮮な気持ちで違うことを学ぶ。その繰り返しが「教わる人」坂下千里子なのである。

池上彰、林修らビッグネームに教わりまくる!坂下千里子、唯一無二の丸腰感_1

教わるだけでは終わらない!? MCの座を獲得

そんな千里子が、この4月から関西ローカルのニュース番組、朝日放送テレビ「news おかえり」(月〜金15:45〜19:00)の木曜MCに就任したと聞いて驚いた。教わり続けてきた千里子が、ニュースキャスターとしてついに発信する側に回ったとなれば、これは大事件である。

しかしそれは杞憂であった。実際に番組を見てみるとメインMCとして発信するのは横山太一アナウンサーで、横に立つ日替わりMCの千里子は、たまにニュースの見出しを読む程度。緊張感があるはずの北朝鮮ミサイルのニュースも、千里子声で「ミサイル発射、核実験にも警戒が必要ですぅ」と読まれると、大したことがないのかなと思ってしまう。
ニュース解説も盤石の解説陣が脇を固めていて、千里子はいつもの表情で感心しながら聞いていた。

安心した。大丈夫、坂下千里子は今も教わり続けている。

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文/前川ヤスタカ イラスト/Rica 編集協力/萩原圭太