『ジャンヌダルクのためにわれわれが立ち上がるんだ』という空気感
少しでも名前を売りたいはずの新人の立候補予定者が、なぜ立候補の意思をまだ明かさないのか。議会解散で議席を失った前市議A氏が市の空気を話す。
「新人候補者たちがマスコミの取材を拒否していると聞きました。ほとんどの人が出馬表明をしないし、“ステルス”でやりたいのか知らないけど、おかしな状況ですよ。
地元の新聞の(立候補予定者に事前に記入を求めた)調査票の中に、『次の議会での田久保市長の不信任決議に賛成か否か?』『田久保市長を支持するか否か?』って項目があるから、田久保派の新人は調査票も回答しないんじゃないかな。
前職で再度市長選に臨む人は全員、不信任に賛成と一致していますが、新人は私の知る限り、不信任案にどう対応するかは“保留する”と言っている人が4人います。この人たちはどう考えても田久保派ですね」(前市議A氏)
別の前市議で、反田久保派であることを隠さないB氏も、地元紙の調査票は田久保市長派かどうかを表明させる“踏み絵”だったと指摘しながら、今後の選挙戦をこう展望した。
「田久保市長側と言わる立候補予定の方は辻立ちしたり、リーフレットを作ったりしてる人はおらず、事前の政治活動をやっているとはとても思えません。みんなネット選挙をやるつもりなんじゃないんですかね。要するにドブ板選挙をやる気は全くないんでしょうね。
それでも数名でも市議に通せば流れが変わる可能性もありますし、選挙はフタを開けるまで何が起こるかわかりません」(B氏)
22日の説明会に名を明かして参加した立候補予定者やその代理人の中には、別の場での取材で田久保市長への二回目の不信任決議案への態度を「保留」と言っている人もいる。
「9月1日の不信任決議案には、当時の市議19人全員が賛成し、市の幹部らも田久保市長の市政運営に次々と異を唱えるなど、外から見れば伊東市は“反田久保一色”で、不信任決議案の再度の可決は必至のようにもみえます。
しかし田久保派が何人立候補するのか、何人当選するのか、そして次の市議会でも田久保市長が不信任されるのかは分かりません。さらに、田久保さんが当選したのはそもそも、前市長の市政に我慢ができなくなった民意の現れです。
前市長もダメ、田久保さんもダメと考え“第三極”の政治を目指すという新人も現れ、情勢は混沌としています」と前市議のCさんは指摘する。
田久保市長が地盤とする市南部の伊豆高原エリアについて、前出の前市議Aさんは「あのエリアだけで市の人口の三分の一はいると思います。あそこは市議選では投票率がかなり低いんですけど、国政選挙では投票率は上がります。
今回のことでどこまで関心をもって投票行動をとるかわからないので潜在票はあるでしょうし未知数な部分はあります」と指摘する。
田久保市長は「東洋大学を卒業した」と言いながら卒業証書と称するものを周囲に見せていたが、実際には大学を除籍されており、東洋大は8月に「除籍者には卒業証書は出さない」と表明している。
だが、これに絡んで支持者の中では「東洋大学が嘘をついている」との主張まで出ているとA前市議は言う。
「どのくらいそういった層がいて票が動くのか。(支持者の間では)『ジャンヌダルクのためにわれわれが立ち上がるんだ』と、そんな空気感があるんですよ」(A前市議)
見えない強固な支持層が実はいて、田久保市長の“与党勢力”が誕生するのか――。秋風が吹き始めた伊豆半島で、伊東市の政局だけは熱気に包まれている。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班