就職氷河期を経て強くなった飲食業界 

TBSテレビのnews23は、「みんなの声」としてSNSで「『丸亀製麺』の店長の年収を最大2000万円に引き上げる方針について、あなたはどう思いますか?」との質問を投げかけた。その回答のトップは「人材不足解消に良い影響を与える」で、26%を占めている。

2024年6月に販売開始した「うどーなつ」の大ヒットも業績好調の要因の一つだ
2024年6月に販売開始した「うどーなつ」の大ヒットも業績好調の要因の一つだ

こうした回答を見ても、飲食業界は常に人材が不足しているというネガティブなイメージが染みついていることがわかる。しかし、実際は意味合いが違う。優秀な人材、専門的な人材が不足しているのだ。

帝国データバンクは業種別に人材の不足率を調査している。それによると、2025年7月時点における飲食業界の正社員不足率は55.9%で、全業種の中で10位だ。1位は建設(68.1%)、2位が情報サービス(67.6%)、3位がメンテナンス・警備・検査(66.7%)である。不足率が70%近い上位3業種と比較すると、飲食業界の不足率が深刻ではないことがうかがえる。

すかいらーくホールディングスも2025年4月から店長が年収1000万円を得られる人事制度を導入したが、人事総務本部の下谷智則デピュティマネージングディレクターはインタビューで、人事制度改革の目的は人手不足対策ではないと語っている(「すかいらーく、「店長で年収1,000万円超」の新人事制度 幅広い業種からの採用を促進」)。すかいらーくの定着率は上がっており、1店当たりの従業員数は2020年に30.9人だったものが2024年には35.1人まで増加したという。

やはり、高度なスキルを有した人材を獲得するという狙いがあるのだ。

飲食業界が転換期を迎えた時期がある。就職氷河期だ。飲食業界は大卒者には特に不人気な業界で、新卒者の人気業界ランキングで文系・理系問わず10位以内にランクインすることはまずないと言える。しかし、氷河期世代は就職難で業種や業界、企業を選ぶことができなかった。飲食企業は一部の優秀な人材を獲得することができたわけだ。

例えば、「焼肉きんぐ」で勢いに乗る物語コーポレーションの代表取締役社長・加藤央之氏は1986年生まれで神奈川大学を卒業後、新卒で入社している。店長勤務を経て業態開発本部長、副社長を経て2020年9月に社長に就任した。

「アロハテーブル」を運営するゼットンの代表取締役会長・鈴木伸典氏は1971年に生まれ、愛知大学在学中に創業者と出会って入社した。ワタミの取締役副社長・清水邦晃氏はバブルが崩壊した直後の1991年に明治大学を中退して入社を決めている。

物語コーポレーション、ゼットン、ワタミ。いずれの会社も優れた事業を展開し、成長軌道にある。彼らが就職難を経験したかどうかはともかくとして、氷河期世代の優れた人材が経営を支えているのは間違いなさそうだ。