令和ロマン・くるまの演技に感じたこと
――本作では、令和ロマンのくるまさんが、奥山譲役としてご出演されています。くるまさんは映画初出演だそうですが、お笑い芸人の方との共演でなにか感じられたことはありましたか。
職業で考えたことはあまりないのですが、くるまさんとのお芝居はすごく刺激的な時間でした。
意訳ですが、くるまさんは、「お芝居のことがわからないからこそ、付け焼き刃で役作りをするとかではなくて、この役のことを自分なりに想像してやるしかないかなと思ったんです」といったことをおっしゃっていたのが印象的で。
とある特殊なカットを撮影していたときに、脚本に書かれている奥山のセリフ量では尺が足りないため、監督から『余白部分をアドリブで埋めてほしい』という指示があったのですが、セリフとアドリブの境界線がわからなくなるほど、解像度の高い奥山さんが目の前にいて、圧倒されました。
――そして、杉咲さんが演じた由嘉里は、趣味や人と関わることで自分を取り戻していきます。「自分を取り戻す」「自分の価値観を信じる」ためにいま取り組んでいることはありますか。
自分で自分の機嫌を取ること、でしょうか。セルフケアすることにちゃんと時間を割くことを心がけたいなと思っています。
少し前までは、仕事に行く20分くらい前に起きて慌ただしく家を出ていくという日々を送っていたのですが、最近、自分の中でルーティーンができたんです。
ぬか漬けを始めたのですが、1〜2時間前に起きてぬか床を混ぜて、ご飯を作って、食事して、洗濯して、家を出る。夜、寝る前も水回りの掃除をして、次の日の新しいタオルをセットして寝る。
当たり前のことかもしれませんが、大事な時間になっていて。自分の暮らしが疎かになりがちな、忙しいときこそ、生活空間を整えて心地のよい場所にすることで、心が休まって、安心できるようになりました。
――「生きづらい」と感じる人も少なくない現代ですが、本作がそういった人の支えになればといった思いはありますか。
もちろんあります。ですが今回は、まず自分自身が救われたかったという気持ちが大きかったかもしれません。
この物語を演じていく中で、社会の規範的な価値観によって抑圧されてきてしまった部分から、由嘉里、ひいては由嘉里を演じる自分自身が少しでも解放されたらいいなという気持ちがありました。
私は、物語を最初に体感する作り手たちがまず救われたら、その熱が余波のように観客へ伝わるのではないかということに、期待をしているんです。それが結果的に、誰かにとっての賛歌になったとしたら、本当に嬉しいことだと思います。
「ミーツ・ザ・ワールド」
(C)金原ひとみ/集英社・映画「ミーツ・ザ・ワールド」製作委員会
配給:クロックワークス
10月24日(金)全国公開
取材・文/羽田健治 撮影/入江達也













