「ビジネスでヒールなしの靴はNG」なの?

その日は同僚のファニーと一緒にイベントに顔を出す予定でした。私が昇進したのと同じ時期にファッションPRのトップになったファニーとはすっかり仲良くなり、その頃になるとよく一緒に行動していたのです。

ファニーはイベント会場まで歩いて行こうと言います。徒歩30 分くらいの距離なので、確かに歩けない距離ではないのですが、タクシーを捕まえて行く気満々だった私は閉口してしまいました。朝からヒールだったので足が疲れていたのです。

渋々承諾した私は足を引き摺りながら会社を出ました。ファニーは歩くのがとても速く、ついて行くのが精一杯です。次第に足、そして全身に痛みが走ります。ひざが曲がり、とても残念な歩き方をしているのが自分でもわかります。いっそのこと、靴をその場で捨て去り、素足で歩きたいくらいです。

見兼ねたファニーが言いました。

「朝からハイヒールなんて履いているからよ!」

ハイヒールのイメージ 写真/Shutterstock
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見ると、ファニーはとても歩きやすそうなペッタンコの靴を履いています。ローファーです。靴ひもを結ぶ必要がなく、気軽に脱いだり履いたりすることができる革靴です。

言われてみれば、オフィスでは日頃、ショートブーツやローファーを履いている女性が多く、ヒールを見かけません。夏になると、ストッキングをはかないパリジェンヌですから、素足に平らなバレリーナ・シューズやサンダル、更にはツッカケのようなものを履いています。ヒールは少数派、イベントの際に見かける程度なのです。

私もペッタンコの靴を持っていましたが、それは「仕事には不適切」という認識が自分の中にありました。「ビジネスでヒールなしの靴はNG」と勝手に思い込んでいたのだと思います。そして入社以来、誰に言われるともなく、毎日ヒールの靴を朝から晩まで履いていました。

ファニーのローファーはかなり履き潰れています。私達の行き先はと言えば、とびっきりオシャレな人達が集まるヴォーグのイベントです。そのローファーは、私などとても履いていく勇気がない代物なのですが、彼女は全く気にしていないようです。