楊貴妃渡来伝説

これも個人的な見解だが、唐代の安史の乱(755年~763年)で中国大陸が大混乱に陥った時、玄宗皇帝の寵妃だった楊貴妃も、ひそかに日本に逃げ延びた可能性があるのではなかろうか。

当時の状況を記した各種文献を突き合わせると、帰国する日本の遣唐使に、玄宗皇帝が楊貴妃を託して避難させたと見るのが、妥当ではないかとも思えるのだ。

実際、山口県長門市の二尊院には「楊貴妃の墓」があり、墓の伝来を記した古文書(1766年作成)も残されている。長門市のホームページでも、「(長門市の)唐渡口に漂着した楊貴妃」という項目を載せている。

楊貴妃像(写真/Shutterstock)
楊貴妃像(写真/Shutterstock)
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日本の楊貴妃研究の第一人者である村山吉廣早大名誉教授も、著書『楊貴妃』(講談社学術文庫、2019年)に二尊院訪問記を寄せているが、日本への逃避説を否定はしていない。

近現代でも、中国大陸で1911年に辛亥革命が起きて、清朝が崩壊した前後の混乱期に、孫文や蔣介石、周恩来をはじめ、多くの中国の知識人らが渡日している。古典的名著『留東外史』(不肖生〈仮名〉著、中国華僑出版社、1998年、未邦訳)には、全九十章にわたって、当時の中国人留学生たちの生態が生々しく描かれている。

そしてこの頃に逃げ延びた中国人たちが中心となって、横浜の中華街が発展していった。現在でも、辛亥革命と中華民国建国の端緒となった武昌蜂起を記念する10月10日の「双十節」には、横浜中華街で盛大なパレードが行われている。

「中国が生きにくいから日本へ来る」という現象は、中国人のDNAでもあるのだ。

文/近藤大介 サムネイル/Shutterstock

『ほんとうの中国 日本人が知らない思考と行動原理』 (講談社現代新書)
近藤 大介 (著)
『ほんとうの中国 日本人が知らない思考と行動原理』 (講談社現代新書)
2025/8/25
1,100円(税込)
272ページ
ISBN: 978-4065409152

中国人は何を考え、どう行動するのか?
日本を代表する中国ウォッチャーが鋭く答える。

中国人と日本人。なにかとすれ違う背景には、日本人が知らない中国人特有の思考と行動原理が背景にあった。

・大陸が生み出す研ぎ澄まされたリスク感覚
・勝者がすべてを総取りする「超」弱肉強食社会
・日常生活は、他者との絶え間ない「闘争」
・中国人は性悪説で考える。騙すのが悪いのではなく、騙される方が悪い
・すべてにおいて「カネ」優先。お金は「自分の命」と同等かそれ以上
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