キャリアを拓け、自分でね

で、何で終わったのか。神谷氏の定義に従うと終身雇用は「傾向」なので、ある日を境に突然変わったわけではない。象徴とされるのが早期退職制度で、2001年に松下電器(当時)の労働組合が受容したことを終身雇用の終焉の始まりとみなす向きもある。

早期退職は意訳すれば「かなり譲歩した解雇」であり、給料払うの難しいんで退職金払うからいま辞めてほしいという「企業側の」施策である。

50代にもなれば、貯金あるしあくせく働くより辞めようと考える方がいてもおかしくない。相応の退職金が支払われる場合もあるので必ずしも一方的な首切りではない。

ただ早期退職は決定的な信頼の毀損になりうる。ずっと一緒にいようねって言ってたのに突然「まあ場合によっては…別れてほしいかも」って言われたわけであるから。

他にも役職定年といった、役職ごとに定年を設けその年齢に達したら自動的に役職を退く制度もある。若手社員に役職を回すねらいもあるが、役職を降りて給料が大幅に減額されることも珍しくなく、これまた終身雇用の諸前提を覆すものであろう。

写真/shutterstock 写真はイメージです
写真/shutterstock 写真はイメージです

ここで重要なのは、会社と社員の信頼関係を砕いたのは企業側だという事実である。損してでも会社を辞めると社員側が言い出したのではない。関係を維持できなくなった企業側が条件を悪化させたから関係を保てなくなってしまったのだ。もちろん企業側は「いやいや、社員のせいでダメになったんじゃないか」と言いたいかもしれない。どっちにしても信頼関係は崩壊している。

「終身雇用みたいな古臭い制度の時代じゃないんです」とか宣うのはわりと意味不明で、終身雇用は会社と社員の関係を規定するひとつの仕組みであり、概ねは会社側が「契約破棄」したのだ。別れようって言われたから別れたのに、「アイツが別れるって言うから…」とか言いふらされてるみたいだ(違う?)。

過去をやたらと貶め新しいものを崇拝する言説には要注意である。いま崇めてるものを数年後には「もう古い」と言い出すに違いないのだ。

若者恐怖症ーー職場のあらたな病理
舟津 昌平
若者恐怖症ーー職場のあらたな病理 (祥伝社新書 716)
2025/8/1
1,056円(税込)
272ページ
ISBN: 978-4396117160

「若者がこわい」は、職場に潜むあらたな病だった。
気鋭の経営学者が読み解く“年の功”消滅社会の正体

「コンプラ大丈夫?」「それ、ハラスメントですよ」
こんな言葉が飛び交う現代の職場では、若者に対する漠然とした恐怖が広がっている。

少子化による超・売り手市場により、年功序列のパワーバランスは逆転した。新人を腫れ物扱いしたり、若手に過剰に忖度している場面に、心当たりはないだろうか。

そんな時代、上司や先輩社員は若手への適切な指導や対話ができずに悩み、ときに「どうせすぐ辞める」「関わるだけ損」などと、距離をとってしまう。こうした空気が、職場に深刻なコミュニケーション不全をもたらしている。

本書では、経営学者・舟津昌平氏が、「飲み会離れ」「早期離職」「やりがい・成長」「ハラスメント」などのキーワードを手がかりに、職場で静かに進行する“若者恐怖症”の実態を明らかにする。
データと現場の声をもとに、通説の矛盾を暴き、世代間の不信やすれ違いの背景にある社会構造を読み解いていく。

部下のマネジメントに悩む管理職はもちろん、20代・30代にも、Z世代にも読んでほしい、
すべての働くひとに向けた、職場改善の処方箋。

【目次】
はじめに 老害になりたくないあなたへ
第1章 若者恐怖症─たとえば、飲み会恐怖症
第2章 若者論の交通整理─Z世代をたらしめるもの
第3章 そして何が問題なのか─神話の喪失、竹槍と学徒動員
第4章 離職恐怖症─若者はすぐ会社を辞めるのか
第5章 やりがい恐怖症─若者は成長しないといけないのか
第6章 ハラスメント恐怖症─若者はなんでもハラスメントって言うのか
第7章 持病とつきあっていく─いっしょに恐怖を飼い慣らす

amazon