AK-69からのメッセージ

そして、ラッパーとしての才能を本格的に開花させていったCandee、Deechと、他のメンバーとの間でギャップが生じていく。

C「(〈OGF〉としては最後のアルバムとなる、2020年末発表の)『DROP OUT』をつくっていたときにはグループに亀裂が入っていました」

それは「ギャングからラッパーへ変われた」派と、「変われなかった」派の対立ともいえるかもしれない。白井被告は後者だった。

C「僕らは曲をどんどん出していきたかったんですけど、他のメンバーと足並みが揃わなくて。結局、『DROP OUT』もふたり(CandeeとDeech)の作品になった。

それで、僕らと、今も一緒にやっているプロデューサーのアキラ(AKIRA THE G.O.A.T.)は『こんな感じだったら、〈OGF〉を抜ける』と言ったんですけど……」

翌日、3人(Candee、Deech、AKIRA)は他のメンバーたちに拉致される。

C「バンに乗せられて、池上町(川崎区)のひと気のない公園に連れて行かれて……ボコボコにされて」

拉致した側には白井被告もいた。

Candeeは仲間を失った喪失感から1カ月間、天井を見つめて過ごした。その頃、憧れていた名古屋のラッパー=AK-69からメッセージが届いたという。

C「突然、『格好いいね。ライブがあったら観に行きたいな』って。『あのAKさんが? うわ、ヤバ!』みたいな。

『でも、グループ抜けたばかりで曲がまだなくて……』と状況を説明したら、『おれも昔、そういうことがあったよ。今はこうなっているわけだから、君もターニングポイントなんだと思うよ』というような長文をくれた。それで、『ああ、もうちょっと頑張ってみよう』と思えました」

D「僕もソロでやっていこうとなったとき、細かい経緯は知らないと思うんですけど、T-Pablowくんが気にかけて食事に誘ってくれて助かりました」

一方、彼らが抜けた〈OGF〉は人間関係がこじれ、離散してしまったという。メンバーのうち、2人が亡くなっている。

C「葬式で、かつて僕たちをボコった〈OGF〉のメンバー2人に会って、謝られました。ひとりのやつは、今はファッションブランドをやっていて、いつか俺たちに着てほしいって。『もう気にしてないよ』と伝えました。みんな、いろいろあって、それぞれの道を進んでいる」

事件発覚直後の白井被告の自宅(筆者撮影)
事件発覚直後の白井被告の自宅(筆者撮影)
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岡崎彩咲陽(あさひ)さんが行方不明になった後、遺族により、彼女に付きまとう覆面姿の白井被告の姿を収めた動画が公開された。ギャングのような出立ちだが、たったひとりで夜の住宅街をうろつくその姿は異様で、どこか孤独に見えた。

あのとき、白井被告が音楽をやる道を選んでいれば事件は起きなかったのだろうか。それはわからない。しかし現実として、ラッパーの道を選んだCandeeとDeechは成功しつつある。彼らの音楽の魅力は、「この道こそが正しい」のだと後続の若者たちに告げているのかもしれない。

取材・文/磯部涼