この小説は救いになると思う

齋藤 志川さんがどこにたどり着くのか、ものすごく気になってどんどんページをめくりました。
渡辺 主人公がどういうふうに生きていくか、どう落としどころをつけるか、書きながら考えたけれどぜんぜん分からなくて。だったら「自分が分からない」という、その「分からなさ」に共感してもらえるかな、と思いました。
齋藤 私はあの終わり方がすごく好きです。世の中にはいろんなセクシャリティの人がいて、それを周囲が受け入れようが受け入れまいが、事実としてその人は“いる”じゃないですか。それを認められるようになっていく話だなと思って。それぞれが、「私は私として生きています」ってことなんですよね。だから、志川ちゃんのような人だけでなく、いろんな人にとってこの小説は救いになるんじゃないかと思ったんです。
渡辺 嬉しいです。これはいわゆる恋愛小説ではないですけれど、私はこれまで恋愛やセックスをテーマにしてこなかったし、しようとも思っていなかったんです。なので、とにかくそうしたテーマで一冊書き終えて、こうやって読んでいただけて、本当によかったです。
齋藤 これまでまったく書こうと思わなかったのですか。
渡辺 私は走るのが苦手だからマラソン小説は書かないだろうし、野球も興味がないので野球小説は書かないだろうし。そういうもののひとつとして、恋愛もあえてメインテーマとしては書かないだろうと思っていました。今回、編集者がすごくプッシュしてくれたから書けたので、もしかしたら今後、ものすごくプッシュされたら野球小説が書ける日がやってくるかもしれませんが(笑)。
齋藤 私は恋愛小説を読むのが好きなので、いつかまた新たな形で渡辺さんが恋愛について書かれた本が読めたら楽しいな、って勝手に思っています。
渡辺 そうですね。もしかしたら、齋藤さん好みの、地獄のような恋愛小説を書ける日がくるかもしれません。
齋藤 やった(笑)。

「小説すばる」2025年9月号転載

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