ダウリー関連で殺害された女性は約6500人
私が取材をした時は、ちょうどインドで総選挙が実施される直前だった。多くの候補者は、「女性の活躍」を訴えていたが、彼女は信用できないと言った。「選挙の時にだけ『女性に○○を支給する』と訴える政党も多いし、その多くが実現しない口約束だと感じるから」
2022年の警察統計によれば、ダウリー関連で殺害された女性は約6500人で、約1700人が自ら命を絶った。過去には、女性の地位の低さを懸念して、妊娠中に胎児が女の子だと分かると中絶する妊婦が続出し、社会問題になった。そのため、今では性別を理由とした中絶や胎児の性別診断そのものが禁止されている。
ただ、検査を担当する医師が、隠語を使って性別を教えてくれるケースもあるようだ。例えば、インドで有名なお菓子「ラドゥ」なら男の子、「バルフィ」「ジャレビ」なら女の子を意味するといった具合だ。極端な事例では、別の国の病院まで行って性別を診断してもらい、男の子でなければ中絶させようとする夫婦までいると報じられている。
首都の裁判所で女性たちを保護する支援員によると、毎月80〜90人から家庭内の問題についての相談を受け持つといい、ほぼ全てで女性側がダウリーを夫側に払っているという。夫側に殺虫剤を飲ませられたり、背骨を殴打されたりと、命に関わる暴力事案も多いというから驚きだ。
世界経済フォーラムが2023年に発表したジェンダーギャップ指数で、インドは146カ国中127位(日本は125位)に沈んだ。インディラ・ガンジー元首相ら、女性が活躍する機会もあるが、23年7月〜24年6月の労働参加率は男性の78.8%に比べて、女性は41.7%にとどまった。役所への提出書類では、父親の名前は記入するのに、母親は書かないケースが少なくない。
女性は結婚後に家庭に入り、2人程度の子ども(特に男の子)を産み育てることを期待される。男女の経済格差や家父長制の影響は大きく、「離婚は、社会的なタブーだ」との見方も少なくない。それが、「1%」にとどまっている実態なのだろう。
女性支援員は「この国では、夫の言うことは絶対という考えが今も根強い。女性の教育をさらに拡充して、意識を変えていく必要がある」とこぼした。
文/石原孝 伊藤弘毅