竹内元県議の妻「声を上げることを決心しました」

斎藤知事の疑惑を調べた県議会調査特別委員会(百条委)のメンバーだった竹内元県議。斎藤知事が失職後の出直し知事選で再選された翌日の昨年11月18日に県議を辞職し、今年1月18日に自ら命を絶った。

8月8日に会見した竹内氏の妻(50)は当時の状況をこう語った。

「夫は立花氏から黒幕と名指しされ、そこから運命が変わりました。その発信がなされた途端、ありとあらゆる方向から夫を非難する言葉とともに、人格を否定し、夫を一方的に責め立てる攻撃が矢のように降り注ぎました。

私たちは攻撃に日夜さらされ、絶望の中でただ息を殺して時が過ぎるのを待つことしかできませんでした。夫は疲弊し、家族を巻き込んでしまったことで仕事を続けることはできないと判断し、議員を辞職しました。

暴力攻撃に屈した自分は負けた、逃げたと言って嘆き続けました。夫は、自ら望んで命を絶ったのではありません。間違いなく、この兵庫県政の混乱の中で追いつめられ、孤立し、社会に絶望してこの世を去りました」

7月4日、竹内英明氏の地元の姫路で抗議をしてきた人と口論する立花孝志氏(撮影/集英社オンライン)
7月4日、竹内英明氏の地元の姫路で抗議をしてきた人と口論する立花孝志氏(撮影/集英社オンライン)
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そして、ウソだと明らかになったデマが今も竹内氏を愚弄し続けているとし、夫と自分の尊厳を守るため「声を上げることを決心しました」と話した。

問題の選挙で立花氏は「斎藤知事を応援する」と言って出馬し、当選を目指さず斎藤氏を宣伝する“2馬力選挙”を展開。「疑惑はウソで斎藤知事はハメられた」と主張した。

選挙の街宣などで、疑惑を告発し、昨年7月に自死した県の元西播磨県民局長Aさん(享年60)のことを「10名以上もの女性県職員と不適切な関係を結んでおり、不同意性交等罪が発覚することを恐れての自殺だと思われる」などと虚偽の話で中傷したうえ、Aさんの遺志を継いで疑惑解明に当たった竹内氏らを「黒幕」と呼んで罵倒。

これを見聞きした支持者らがAさんや竹内氏を誹謗中傷する投稿をSNSに上げたとみられている。

「Aさんの尊厳はめちゃくちゃにされました。当時、遺族なら刑法の“死者の名誉棄損罪”で立花氏を告訴し刑事罰を求めることができるのでは、との声もありました。

でも憔悴しきった遺族の姿を知る人は『矢面に立つことを求めるのはあまりにも酷だ』と反対でした」(地元記者)

そのつらい役回りを竹内氏の妻が引き受けたことになるのは、悲劇としか言いようがない。

昨年8月30日、兵庫県議会百条委員会で斎藤元彦知事を尋問する竹内英明県議(撮影/集英社オンライン)
昨年8月30日、兵庫県議会百条委員会で斎藤元彦知事を尋問する竹内英明県議(撮影/集英社オンライン)

「死者の名誉棄損」は過去に適用例が確認できないが…

会見に同席した石森雄一郎弁護士らは、竹内氏が存命中の昨年12月、立花氏が、立候補していた泉大津市長選での演説で「竹内県議は警察の取り調べを受けてるのは間違いない」と発言したことを確認。

死去が報じられた今年1月19日にはYouTubeでのライブ配信で「竹内さんという県議、任意の事情聴取が繰り返されて明日逮捕する予定であったところ、本人は逮捕される前に自ら命を絶ったと」と発言した証拠も確保している。

昨年11月16日、兵庫県知事選で街頭演説する立花孝志氏(撮影/集英社オンライン)
昨年11月16日、兵庫県知事選で街頭演説する立花孝志氏(撮影/集英社オンライン)

これらが名誉棄損と「死者の名誉棄損」にあたるとする告訴状を、兵庫県警は告訴期限間際の6月に2回にわたり受理していた。

告訴代理人を務める郷原信郎弁護士によると、告訴状は神戸地検と調整した上で県警に提出された。

社会部記者は「事前調整で“立件できる”との見通しを当局に示唆された内容に絞り容疑を告訴状に書いたことが考えられます」と話し、立花氏は立件される可能性があるとみる。

石森弁護士によれば「死者の名誉棄損」は過去に適用例が確認できない。一般的な名誉棄損罪は発言内容の真偽は関係なく他人の社会的評価を下げれば成立するが、死者の場合は名誉を傷つける発言が虚偽でなければ罪にならず、「虚偽であることを完全に立証しきるのは難しい」ことがネックになってきた。

だが今回はこの条件をクリアできる可能性があるという。

「立花氏の1月の発言の翌日、当時の県警本部長が県議会で『竹内元議員は被疑者として任意の調べをしたこともなく、ましてや逮捕する話は全くない。明白な虚偽がSNSで拡散されていることは極めて遺憾』と発言しました。立花氏の話の拡散阻止が目的の異例の言及でした」(地元記者)

兵庫県知事選ポスターの掲示板。左下が立花候補のポスター(撮影/集英社オンライン)
兵庫県知事選ポスターの掲示板。左下が立花候補のポスター(撮影/集英社オンライン)

この状況を石森弁護士は、「県警本部自身が(立花氏の話は虚偽であることの)証人であるという、非常に特異な例になってる」と話し、死者の名誉棄損罪が適用される初のケースになりそうだと期待する。

告訴されていたことを知った立花氏は党の会見で「名誉毀損したことは争わないが、十分、違法性が阻却されるだけの根拠をもって発言している」と述べ、犯罪ではないと主張した。