実際にオープンチャットに潜入取材してみると…
実際にオープンチャットに潜入取材してみると、そこには目を覆いたくなるような光景が広がっていた。
インフルエンサーが毎日のように「好立地の物件です!」「管理の良さが窺えます!」と、築50年を超える旧耐震の物件をさも掘り出し物であるかのように紹介。
もちろん、どれもプロなら絶対に手を出さないような筋悪な物件だ。しかし、価格が高い築年数が新しい物件と並べることで相対的に割安感が出るため、お金も知識もない若者にとっては魅力的に映るという仕組みだ。
加えて、オープンチャット内での独特の雰囲気も購入を後押しする。定期的にほかの参加者が「◯◯さんに紹介された物件を購入しました」と具体的な購入体験を投稿すると、インフルエンサーが「購入おめでとうございます、良い時期に買えましたね!」と呼応する。
物件紹介と並行してこうしたやり取りを繰り返すことで、「みんな買っている、いますぐ家を買わないと駄目だ」といった雰囲気を醸成する仕組みだ。
これはカルト宗教やマルチ商法でよく見られる手法だが、チャット上で異論を唱えようものなら即座に追放されるため、批判的な人間は誰も存在しない。
都心の築古物件を「資産価値がある」と謳って素人に販売するという手法は、インフルエンサーに限らない。
素人に築古物件を販売する会社、急速に事業拡大
近年、「中古マンション投資で不労所得」といったキャッチコピーを掲げ、素人に築古物件を販売する不動産会社も急速に事業を拡大している。
「オーナーチェンジ」と呼ばれる、人が住んでいる物件のため、安定的に家賃収入を得られるという謳い文句だ。
もちろん、こちらにもリスクはある。築古物件は賃貸でも入居者がつきにくいため、入居者が転居すると、空室で毎月のように赤字を垂れ流すことになる。
設備も老朽化しているため、修繕コストも高いし、管理体制が悪いマンションが多い。そもそも、素人を相手にしているため、物件価格が高めに設定されているのだ。
将来売却しようとしても、出口戦略が立てにくいというのは既に説明の通りで、都心の立地といえども、将来にわたって損を出し続ける「負動産」になる可能性が高い。
「そもそも、掘り出し物件なんて、素人には絶対に手に入らない」と都内の不動産事業者は語る。
同社は買い取り再販事業という、物件を購入してリノベして販売する事業を行なっているが、これはプロが自分の足を使って物件を探し、慎重に採算を見極めて行なっているものだ。
インフルエンサーや投資用物件として販売されている物件は、そもそも買い手がつかなかったという証でもある。素人が欲を出して購入しようとしている時点で、ネギを背負った鴨でしかない。
マンション価格の高騰に伴い「すぐに家を買わないと取り残される」という焦燥感は更に強く、激しくなっている。
マンションが住むものではなく資産として認識されるようになった昨今、一見割安な築古物件はより魅力的に映る。
しかし、その先に待っているのが地獄であるということを伝える声は、彼らには届かない。
文/築地コンフィデンシャル