開業しても富裕層のためだけの乗り物に?

「たとえば山梨のリニア実験線では、耐え難い騒音が日常的に発生し、現在の工事区域でも、住民の立ち退きや減渇水、杜撰な残土処分も問題になっています。また、リニア工事の差し止めを求める民事訴訟も複数進行中ですが、全国報道されることはほとんどありません」

報道が広がらない背景には、メディアの構造的な問題がある。

「JR東海は大手メディアのスポンサーでもあります。私も、同社が広告を出している媒体には記事を掲載できませんでした。さらに、こうした長期的なプロジェクトを継続的に取材する記者が少ないことも問題です」

しかし徐々にだが、世論の空気に変化が出てきた。当初はリニアに肯定的な人が多かったものの、今では「そこまでして作る必要があるのか?」「環境問題を優先するべきだ」という声も強くなっている。

そもそも、リニアで採算を取るのは厳しいという声もある。

「2013年にJR東海の山田佳臣社長(当時)が『リニアは絶対ペイしない』と発言し、この発言を受けて国交省鉄道局も『リニアはどこまでいっても赤字です』と認めたように、リニアは赤字が確実視されています。根拠となる数字もあります。

実際、リニアを黒字にするには、かなり高い運賃設定が必要です。現在は、『のぞみ』の料金プラス700円〜1000円程度を想定しているようですが、それでは到底足りないでしょう。

ただし国交省は『鉄道は採算性だけで走らせるものではない』と釈明することでリニア計画を推進しています」

これらの事情から、リニアは一部の富裕層やインバウンド観光客向けの高級交通手段になりかねず、社会全体のニーズを満たすか疑問視されている。

リニアはいつ開業するのか?
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「JR東海が推進するアメリカでのリニア計画(ワシントンDC・ボルチモア間の65km。将来的にはNYまで)では、現地鉄道会社が公表するその料金は在来線の最高で8倍であり、払えるのは人口の2%の富裕層だけと報じられていました。

また、リニアは東京から大阪まで開業してやっと意味を持ちますが、その大阪開業の実現も、私の試算ではおそらく2060年代になりそうですし、品川~名古屋間だけでは乗客はそれほど伸びないと思います」

リニア中央新幹線は、日本の技術力の結晶であり、国家的な大事業として推進されてきた。だがその裏では、水資源の枯渇や騒音被害、そして都道府県単位での分断も各地で生じている。一度失われた環境は、元には戻らない。だからこそ、いま改めて、慎重な姿勢が求められている。

取材・文/集英社オンライン編集部