月がついてこなくなったら大人です。 

トークイベント「大人のお悩み相談室」レポート!ヨシタケシンスケ×原宿(「オモコロ」編集長)月がついてこなくなったら大人です。_1
すべての画像を見る
トークイベント「大人のお悩み相談室」レポート!ヨシタケシンスケ×原宿(「オモコロ」編集長)月がついてこなくなったら大人です。_2

地球に不時着した宇宙人がやってきたのは、ちょっと風変わりな職業相談所。宇宙人は相談所のスタッフと一緒に、この星で生きていくこと、働くことの意味について考えはじめる。誰もが避けて通れない「仕事」の意味を問い直し、明日をちょっと明るくする、すべての子どもと大人のためのヨシタケシンスケ版〝ハローワーク〟ストーリー!

『おしごとそうだんセンター』
ヨシタケシンスケ 著
発売中・A5判
定価1,760円(税込)

ヨシタケ 初めまして。原宿さんのことはWebでずっと拝見していました。私以上に、今は大学生になった息子が、青春時代をオモコロで過ごしておりまして。

原宿 それは申し訳ございません(笑)。

ヨシタケ 家族でずっとお世話になっていたので、今日はお会いできて光栄です。

向いてないことをやり続けられるほど人間は器用でも丈夫でもない

─(司会)では一つ目、20代女性のお悩みです。大学3回生となり、進路に真剣に向き合っています。「好き」を仕事にしてみたい気持ちはあるものの、現実や安定を考えると勇気が出ません。仕事選びの基準について教えてください。

ヨシタケ これは王道のお悩みですね。どういう基準で仕事を探したらいいか、というのはよく聞かれるのですが、最近思うのは、自分に向いていないことを5年も10年も続けられるほど、人間は丈夫でも器用でもないということ。少しでも居心地のいい場所を探していけば、最終的にその人らしい場所に行き着かざるを得ないのではないかと思っています。もし、ぶつぶつ言いながらでも同じ仕事を10年、20年続けている人がいたら、それはある程度向いているんだろうと。だから夢がないとか、やりたいことがわからないという人は、どうしてもやりたくないこと以外は何でもよくないですかね、と思います。それに「夢」と名付けちゃえばいいんじゃないですかと。

原宿 わかります。自分がやりたくないことがわかるのはめっちゃ大事ですね。

ヨシタケ そう。ただ、やってみないとわからないことはあって、僕は半年間だけ会社員をやったことで、団体行動が苦手だということが身に沁みました。

原宿 『おしごとそうだんセンター』のなかにも、〝交じっていく〟重要性が書かれていますね。人や場所に交じった先にしか自分というものはないという感覚を、僕もすごく持っています。それから僕の経験でいうと、好きよりも、続くほうが重要じゃないかと。テンション上がって最高! みたいなことよりも、平熱のまま続けられることのほうが仕事には向いてると思うんです。今やってるモノを書くとかしゃべる仕事にも、得意とか好きというより、ずっとやってられるという感覚があるんですよ。

ヨシタケ 意外と苦じゃないというキーワードだけで十分。それはすごくありますね。

─次は40代女性です。同じ仕事を長年続けています。絶対に降りられないレールの上を走っていて、ゴールまで進むしかないと思う時があります。この強迫観念をゆるっとさせる考え方はありますか。

ヨシタケ こういうとき、僕はよく、「来世は何をしようかな」と考えます。

原宿 二回目がある前提! いいですね。一度きりじゃないと思ったら、ちょっと気持ちがラクになる。

ヨシタケ そうそう。来世何しようかなって考えると、だったら今世で予行演習しておこうかな、って気になるかもしれない。物語を導入することで余裕が出るんだったら、どんどん採用していいと思うんです。

原宿 なるほど。僕はお悩みの中の「ゆるっと」がポイントなのかなと思いました。これから何か別のことをしたいというわけではなく、気持ちを緩めたいと。そんな時、たとえば「船」を想像するんです。長い航海を経た一艘の船がある。船員は年を重ねベテランになり、船は長い航海の中で錆びついたり傷ついたり経年劣化している。でもこうした変化って、よく見るとカッコいいんですよ。相談者の方にも、同じ仕事を続けてきて私はこれでよかったのかな、という気持ちがあると同時に、そんな自分を誇らしく思う気持ちもあるはずです。後者の側の気持ちに光を当てると、ゆるっとするんじゃないかなあと思いました。