暇な上司がしゃべりかけてきて仕事が進みません……。
─30代女性から。私はすごーく忙しいのに、暇な上司がしゃべりかけてくるので仕事が進みません。どうしたらいいですか。上司と仲はいいのですが。
ヨシタケ これはですね、リモート会議をするときに使うヘッドセット的なものを着けるとか。神様の像を机に置いて、話しかけられたらお祈りを始めるとか。
原宿 それはいいですね。自分の聖域をつくっておくと。あるいは朝、上司から、今日したい話の箇条書きをメモでもらっておいて、これは×、これは〇をつけておく。
ヨシタケ 事前申告は会社らしくていいですね。「人事部を通して、給料の範囲で聞けるのは3つまでになりました」とか言えば、上司はぐうの音も出ないかも。
原宿 その結果、上司の話がどんどん面白くなっていく可能性はありますね。制限があると表現は伸びていくはずなので。
ヨシタケ たしかに。すると今度は、相談者の方が、もっと上司の話を聞きたくなるかもしれません。
─20代女性からです。私は給料日に年金や税金が引かれていると「大人だな」と思います。お二人が思う、大人になった瞬間はいつですか?
ヨシタケ 難しいですね。絵本を描いている僕はよく「子供の気持ちを忘れない秘訣は何ですか」という質問を受けるんですが、逆に「どうすれば大人の気持ちになれるんですか」って聞きたくなるんです。いまだに大人って偉いなあって思うんですよ。
原宿 大人なのに。
ヨシタケ そう、年齢的には大人なのに、価値基準がほぼ子供のままなんです。忘れてないんじゃなくて、アップデートできてないだけ。しかもみんなそうだと思っていたら、どうやらみんなは大人になっているので驚きました。そういうところを芸にしていくしかないと今は思っていますが。
原宿 僕は力士が20歳とか25歳と聞くと驚きます。世の中で活躍されている人は自分より年上な感じがいまだにあって。
ヨシタケ あります。気づいたら周りが年下ばかりになっていて、へんな感じがする。
原宿 そうした違和感を覚えるのが大人なのかもと思ったりしますね。自分の歳がだんだんわからなくなって、興味がなくなって、誕生日を祝いたくなくなったら大人。
ヨシタケ そうですね。僕が絵本作家として考えたことがあるのは、月がついてこなくなったら大人なんじゃないかと。子供の頃、夕方、買い物の帰りとかにお母さんの自転車の後ろに乗っていると、月が追いかけてきたじゃないですか。あるとき、月はうんと遠くにあるだけで、動いていないという真理を知ったとたん、ついてこなくなったんです。そのときに、世界がちょっとつまらなくなった。同時に大人になった感じがしたんです。
原宿 あ、すごい。すてき。
ヨシタケ この話は絵本になりそうだなと思ったことがあります。
原宿 何かを知った瞬間に世界が一変することはありますね。しかも一度知ると、その前には戻れない。子供から大人って一方通行だから切ないんだ。
ヨシタケ そうですね。こうした微笑ましい話を、これからもたくさんしていけたらいいなと思っています。
今日はこうして相談に答える側ですが、世の中って相談する派と、しない派に分かれますよね。僕はしない派に属しているんです。原宿さんはどっちですか?
原宿 僕もそこまで相談しないタイプですね。矛盾を抱えているのが好きなんですよ。矛盾してこそ現実というか、生きているという感覚があるので、相談してどうこうしたいというより、矛盾してる、すげえ、最高、みたいな感覚になっちゃうんです。
ヨシタケ ということは、相談を聞くのは楽しいってことですよね。
原宿 聞くのも答えるのも楽しいです。時間があれば、相談の千本ノックもいけるなと(笑)。ずっと聞いていたいなと今日は思っていました。
ヨシタケ 僕もとても楽しかったです。