詐欺師の集団
「私に対しては『滑舌が悪い!』とか『声が小さい!』とか言って、構ってくれたんですね。しかも毎日開催してくれるから、どんどん彼女を好きになっちゃって。関係も密になっていった。りりちゃんが源氏名『うぶちゃん』としてソープで働いていた時には、勤務している店にまでりりヲタが会いに行ったりしていました。参加しているコは全員が全員、若いコというわけではなく、50歳手前くらいの『高齢頂き女子』もいた。その方はLINEのオープンチャットに自撮りをアップしまくったりと、ぶっ飛んでいましたが、人を陥れたり誹謗中傷はしない。綺麗に〝頂く〟方でした。
私も、りりちゃんにのめりこみすぎて配信に張り付いて、周囲から心配されるほどでした。彼女の面白さはもちろん、参加しているコたちも皆、独特で、スペース自体の楽しさというか、参加できることの特別感があったんです」
このサロンに集まる「りりヲタ」たちは、マニュアルを使って男性の恋愛感情を利用して大金を詐取し、それを報告し合っていた。言ってしまえば「詐欺師の集団」だ。
しかし、このサロンが「りりヲタ」たちにとってかけがえのない居場所であったこともまた事実だ。
人は誰しも成長するにつれて「あれ、私、こんなはずじゃなかった……」と思う時があるのではないか。幼い頃に自分の未来の姿として想像していた「キラキラした自分」どころか、世の中で言うところの「普通の人」にもなれていない自分に気づき、「心を開ける存在がいない」「居場所がない」「夢や目標を持っても、どうせ叶わないのだから仕方がない」と孤独を深めていく。
しかしサロンに参加すれば、居場所も夢も目標も、心を許せる仲間も与えてくれる。日常がどんなにつまらなくても、毎日「りりちゃん」が配信しており、クローズドの空間の中、皆で「成果」を報告し合い、「頑張ったね」と励まし合うことができる。
また時には「私のほうがりりちゃんから好かれてる!」と寵愛を競い合ったりもする。まるでこのスペースは、女性たちが孤独な毎日から逃げ込むりりちゃんを頂点としたアジールのようだ。ここにいれば、「頂き」というただひとつの共通目的に、仲間たちと同じ方向を向いて走っていくことができる。
渡邊被告の支援者として名乗りを上げた立花奈央子氏も、こう語る。
「私は後からこのコミュニティについて詳しく知りましたが、渡邊さん本人や参加者たちの話を聞いて、まるで部活やサークル活動みたいだな、と感じました。サークル活動では、同じ目的、精神で共に過ごす。目的に向かって情報共有し、日々の活動を報告し合い、そこが居場所になっていく。そういった取り組み自体に、価値が見出されていたのではないでしょうか。
『頂き女子コミュニティ』って、別に『たくさんお金を稼ごう』みたいなことではなくて、『頑張ったね』とか『私はこうしたらうまくいったよ』という共感に基づくコミュニケーションと、それによってもたらされる連帯感に価値があったように思います。『もっとお金を稼ごう』という犯罪教唆のムードはなく、それゆえに参加者は罪の意識が薄かった。
とはいえ、社会的には後ろ暗いことですし、他の人に話せることではない。その点、このコミュニティは参加者の多くがホストクラブに通っていて、特有の悩みと目標を共有することができた。『担当のためにお金がいっぱい欲しい、だから〝おぢ〟から引っ張ろう。どうしたらいいだろう? みんなで一緒に頑張ろう、いぇい!』と。非常に危ういですが、歓楽街をフィールドにした部活であり、青春だったのでしょう」
そして、こう総括する。
「大きな大会が終わったり、進級したら自然と卒業しますよね。それからしばらくして『あの時みんなで頑張ったな』とか『あの頃のメンバーに会いたいな』と振り返ることはあっても、当時の狂気じみた〝熱気〟はもう二度と戻らない」