楽しむ心
プロジェクトの中で、大きなターニングポイントを1つ挙げるとするなら、8月にあった二者択一の判断を間違えなかったことだと思う。トウモロコシを引き抜いて灌漑設備を導入するか、生き残る保証のないトウモロコシを残して灌漑工事を待つかというあの2択問題だ。
合理的な視点から灌漑工事を早急に執り行うことが明らかに必要だった。しかし住民の多くはそれに反対した。「私たちの畑をこうしたい」というグループの願いに寄り添ったあの日の選択。そこが分岐点となって、彼らの内にあった主体性が一気に溢れ出してきた。
農場では灌漑設備の使い方を学ぶ研修が始まっていた。メンバーも目新しい技術に対して、明らかに興味津々な様子が伝わってくる。灌漑農業を通じて住民の自立を支援する。1年半前に誓った言葉が、長旅を経て、現実のものとなりつつある。
灌漑研修を終えると、すぐにリーダーが舵を取り、グループは農作業に戻っていく。彼らの笑顔を見てふと目頭が熱くなった。何より彼らは楽しそうだった。モチベーションを高めるのには、利益というインセンティブだけではなく、プロジェクトそのもの、すなわち農作業そのものを楽しんでいるかが鍵になる。
楽しむ心がすべてと言いきってもいいかもしれない。どれだけ私たちが自立の重要性を説いたとしても、楽しくなければ続けられるわけがない。
私はアイザックと話したあの農地で、牛糞を撒きながら楽しそうに仲間と話す女性のことを思い出した。「畑は私のものだ」という主体性はとても大事だ。でも主体性は楽しむ心がなければ輝かない。
目の前の営みを純粋に楽しむこと。そう、それだ。私の心は宝のありかに気づいた少年のそれみたいに、物事の核心を発見した興奮を感じてなかなか冷めやらなかった。
楽しむ心に着火するように活動設計することが一番大事なのだ。それは私たち一人ひとりにも当てはまる。支援対象者の楽しむ心に触れられるよう、スタッフ一人ひとりがプロジェクトを楽しまなければならない。そしてスタッフが楽しんで働けるような環境を作るために、私自身が一番楽しむ心を忘れてはいけない。
文/田畑勇樹