成功の秘密
「ちゃんと成果を出している農民グループだってあるでしょう」
「もちろんだ。でもとても少ない。そしてそこには農民を支援する側の問題がある」
アイザックは続けた。
「会社にはノルマがある。予算がつく代わりに研修の実施回数や、種子の普及件数とか。それによって評価され、昇給する。だから研修はとても便宜的でつまらないものになる。僕は今までウガンダ国内で多くの農民グループと接してきた。
学びたいという強い意欲を持った農民たちもたくさんいた。でも支援する側だっていろんな都合がある。時間とか、お金とか。だから彼らに対して十分な知識を与えるような構造にそもそもなっていなかったりする。例えば十分に研修もせずに予算が尽きて、灌漑設備を農民たちに引き渡す。
設備が故障すると、正しい使い方を習得していない農民は修理ができず放置する。そういうことが山ほど起きている。灌漑設備を管理することはそんなに簡単じゃない。本来はもっと時間が必要だ」
アイザックは珍しくよく喋った。
「首都から来た灌漑設備の建設業者だって驚いている。どうして命令せず、強制せず、対価提供もせず、農民たちはプロジェクトに参加しているのかと聞かれたよ。そのユニークさの源泉はどこにあるのかってね」
「それで君はどう答えたんだい?」私は純粋に答えを知りたかった。
「それを今、学んでいるところだ」と彼は微笑んだ。
「なんだ、お茶を濁すのか」
「ユウキはどう思う?」とアイザックは逆質問で返してきた。
私は頭の中で考えを巡らせた。もし成功の秘密があるとしたらそれは何だろう。第一、私は目の前にいる彼ら以外に農民グループを知らない。だから何かと比較して、安直に語ることはできない。私たちはまだ駆け出しだ。もっとハイレベルな農民グループはたくさんある。
でも、私たちの支援対象者だって負けてないような気もする。どうしてそう思うんだろう。案外難しい問いだ。それは基本問題の組み合わせなのに、なかなか解けない良問の類いだった。
牛糞堆肥を畑に撒き散らして楽しそうに仲間と話す女性を見つめていると、不確かだけれどそこに何か手がかりがあるような気がした。
アイザックの問いが、まだ頭の中を駆け巡っていた。