この地域がよりよい方向に進んでいく
女性たちとともに収穫物の一端を大事に抱え上げ祝福し合う。それがこれまでの苦労の中で流した汗や涙の結晶だと思えば、特別な重みを感じないわけにはいかない。
小さな変化を積み重ねることが、少しばかりよい未来に繫がっていく。この活動を続ければ、この地域がよりよい方向に進んでいくことを私はまた確信する。
すぐ隣の区画では、灌漑用のパイプやドリップラインの敷設工事が進んでいる。ドリップラインと呼ばれる等間隔の小さな穴を持つチューブホースが畑に敷かれていく。その穴から作物に対して水を滴り落とす点滴灌漑と呼ばれる仕組みだ。
雨季から乾季へと移り変わっていく9月には、再び大雨が降り、一時は蒸発が深刻だった貯水池は再び満杯になった。いつでも畑に水を送る準備はできている。
5月に開始した住民への農業研修。穀物の生産、収穫、野菜栽培の開始と、長い時間をともにしてきた中で、住民たちとの信頼もゆっくりと着実に育まれてきた。野菜の苗が育っている様子を見て、ある支援対象者は語った。
「最初は野菜栽培なんてできないと思っていた。発芽することも期待していなかった。野菜なんて過去にうまくできたこともなかったから。でも今は違う。未来に希望を持っている」
以前はお腹を手でさすりながら「お腹が空いて力が出ない」と顔の濡れたアンパンマンみたいなセリフで食べ物を乞うてきた住民のおねだりも、あまり目につかなくなっていた。
彼らの顔つきは明らかに、プロジェクト開始当初とは変わってきている。彼らは今、農場に実った果実を通して未来にその視線を送っている。
文/田畑勇樹