この地域がよりよい方向に進んでいく

女性たちとともに収穫物の一端を大事に抱え上げ祝福し合う。それがこれまでの苦労の中で流した汗や涙の結晶だと思えば、特別な重みを感じないわけにはいかない。

小さな変化を積み重ねることが、少しばかりよい未来に繫がっていく。この活動を続ければ、この地域がよりよい方向に進んでいくことを私はまた確信する。

野菜栽培に集中して取り組む住民たち 写真/著者提供
野菜栽培に集中して取り組む住民たち 写真/著者提供
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すぐ隣の区画では、灌漑用のパイプやドリップラインの敷設工事が進んでいる。ドリップラインと呼ばれる等間隔の小さな穴を持つチューブホースが畑に敷かれていく。その穴から作物に対して水を滴り落とす点滴灌漑と呼ばれる仕組みだ。

雨季から乾季へと移り変わっていく9月には、再び大雨が降り、一時は蒸発が深刻だった貯水池は再び満杯になった。いつでも畑に水を送る準備はできている。

5月に開始した住民への農業研修。穀物の生産、収穫、野菜栽培の開始と、長い時間をともにしてきた中で、住民たちとの信頼もゆっくりと着実に育まれてきた。野菜の苗が育っている様子を見て、ある支援対象者は語った。

「最初は野菜栽培なんてできないと思っていた。発芽することも期待していなかった。野菜なんて過去にうまくできたこともなかったから。でも今は違う。未来に希望を持っている」

以前はお腹を手でさすりながら「お腹が空いて力が出ない」と顔の濡れたアンパンマンみたいなセリフで食べ物を乞うてきた住民のおねだりも、あまり目につかなくなっていた。

彼らの顔つきは明らかに、プロジェクト開始当初とは変わってきている。彼らは今、農場に実った果実を通して未来にその視線を送っている。

文/田畑勇樹

荒野に果実が実るまで 新卒23歳 アフリカ駐在員の奮闘記
田畑 勇樹
荒野に果実が実るまで新卒23歳 アフリカ駐在員の奮闘記
2025年6月17日発売
1,243円(税込)
新書判/272ページ
ISBN: 978-4-08-721367-6
不可能と言われたウガンダ灌漑プロジェクト。
23歳若者の挑戦
大学卒業と同時にNPOに就職しウガンダに駐在した著者は、深刻な飢えに苦しむ住民たちの命の危機に直面。
絶望的な状況を前に、住民たちがこの荒野で農業を営めば、胃袋を満たすことができるのではないかと思い立つ。
天候とのたたかいや政治家たちの妨害など、さまざまな困難に直面する著者。
当時の手記を元に援助屋のリアルを綴った奮闘記である今作は、2024年第22回開高健ノンフィクション賞最終候補作にも選ばれる。
「不可能なんて言わせない」、飢餓援助の渦に飛び込んだ23歳が信じた道とは?
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