「大人の私はどう向き合っていいのかわからなくなってしまった」

こうして原田知世は時空も天空も越えて、映画の中で永遠の命を与えられると同時に、『時をかける少女』という歌に命を与える役割も果たしたのだった。

15歳で主演映画の主題歌を歌い、歌手デビュー。写真は『DREAM PRICE 1000 / 原田知世 時をかける少女』(2002年2月20日発売、Sony Music)のジャケット
15歳で主演映画の主題歌を歌い、歌手デビュー。写真は『DREAM PRICE 1000 / 原田知世 時をかける少女』(2002年2月20日発売、Sony Music)のジャケット

しかし、彼女自身は大人になるにつれて、『時をかける少女』を歌えなくなったという。

「松任谷正隆さんのオリジナルのアレンジが完璧で、15歳の時の自分の声もはっきりと耳に残っていて、大人の私はどう向き合っていいのかわからなくなってしまったんです。それで何年も歌えませんでした。25周年の時にプロデューサーの伊藤ゴローさんがスローなアレンジにしてくれて、また歌えるようになった」

オリジナルは松任谷正隆のアレンジでポップな仕上がりだったが、こちらはストリングスを中心とした、深みのある落ち着いたサウンドだ。

はじめて歌ってから35年の歳月を経た2017年の夏には、新たにリアレンジされた『時をかける少女(2017 Version)』が発表された。

デビュー35周年記念アルバム『音楽と私 [通常盤] [SHM-CD]』(2017年7月5日発売、UNIVERSAL MUSIC JAPAN)
デビュー35周年記念アルバム『音楽と私 [通常盤] [SHM-CD]』(2017年7月5日発売、UNIVERSAL MUSIC JAPAN)
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原田知世によって命を与えられた「時をかける少女」は、今では小説からも映画からも離れて、新しい世代に歌い継がれている。

文/佐藤剛 編集/TAP the POP

引用/『AERA』(2017年7月10日号)、「ニッポンへの発言キーワード 原田知世の35年=中森明夫」(毎日新聞2017年7月18日)