「空振り」をおそれるな

逃げない理由として、ここでもうひとつ取り上げたいのは、災害が起こるという予想が外れるのではないかと思う心理です。

住民にとって、避難をするということは、雨の中、荷物を持って外を歩かなければならないし、知らない場所では寝られないし、予定通りのことができないしと、負担がかかります。

ですから、後から考えたら逃げなくても大丈夫だった、ということになると損をした気分になることはよくわかります。市町村の防災担当者にとっては、「避難指示」を出したのにその地区で何も被害がなかったら、あとで住民から批判の声が出るのではないかと心配する気持ちもあるでしょう。

こうしたことを背景に、災害対策においては、「空振りをおそれない」という言葉が次第に定着してきました。もちろん、「空振り」というのは、野球の用語になぞらえた言葉で、対策をとったけれど、それほどの被害は出なかったという意味です。

「空振り」になるかどうかは、事前には誰にもわかりません。「空振り」かもしれないと言って避難をしないと、本当に災害が起きたときに命を落とすことになります。だから「空振り」をおそれずに、避難をしなくてはいけないのです。

岩手県釜石市
岩手県釜石市

津波の話になりますが、岩手県釡石市に、2011年の東日本大震災を後世に伝えるための「津波記憶石」という石碑があります。そこには、地元の中学生の言葉として、「100回逃げて、100回来なくても、101回目も必ず逃げて」と書かれています。心に染みる言葉です。気象災害でもまったく同じです。