「空振りをおそれない」防災気象情報の予測技術を高めるため、”気象庁が全力を挙げてやってきたこと”とは?
台風や線状降水帯がもたらす大雨の影響で毎年のように甚大な被害がもたらされている。もし自分が住んでいる地域に、何も準備をしていない段階で避難指示が出たら、あなたはすぐに避難ができるだろうか。警報を出す側にも「オオカミ少年」にはなれないというジレンマが…。
命を守るための気象庁の取り組みを書籍『天気予報はなぜ当たるようになったのか』より一部抜粋・再構成して紹介する。
天気予報はなぜ当たるようになったのか #1
オオカミ少年を防ぐために
「空振り」が増えると、だんだんその情報では人が動いてくれなくなります。羊飼いの少年が、オオカミが来たと噓をつき続けて、とうとう本当にオオカミが来たときに誰も信じてくれなかったという話と同じです。これでは情報は用をなしません。
このため、防災気象情報の基準を決めるときには、過去の気象のデータと災害のデータを集めて整理し、それを使って基準と「空振り」と「見逃し」の関係を調べ、情報の役割に照らして最適なバランスになるよう基準を決めています。
オオカミ少年のようにならないためには、「空振り」も含めて、予測の検証を行い、その結果をきちんと説明するということも大切だと思います。
オオカミ少年の話では、そもそも少年が噓をついていたということですが、「空振り」になった情報は、もちろん噓ではなく、最大限の技術と知見を駆使した結果です。
また、災害が発生したか否かという目で見れば「空振り」に見えても、ほとんど紙一重で、本当に運よく災害にならなかっただけというケースも多いのです。
気象庁では、特別警報を発表したときには、そのときの実際の大雨などの状況と、発表した情報とを比べ、その結果を公表しています。また、警報などの情報を発表した後には、関係する自治体などに、そのときの状況などを説明するようにしています。
今後もこうした取り組みを強化し、関係機関、住民などに、気象庁が全力を尽くしていることをわかってもらうことが、地域の防災を進める上で大変重要だと思います。
写真はすべてイメージです 写真/Shutterstock
天気予報はなぜ当たるようになったのか
長谷川 直之
2025年6月6日発売
1,012円(税込)
新書判/256ページ
ISBN: 978-4-7976-8158-1
私たちの生活に欠かせない「天気予報」はどのように作られているのか?
気象の予測技術開発、国際協力業務、「線状降水帯」の情報発表などに取り組んできた
元気象庁長官の著者が、その舞台裏をわかりやすく解説する!
身近だけれど、実は知らないことだらけの「天気予報」のしくみがわかる!
2025年は、日本の気象業務のはじまりから150年の節目の年!
【内容紹介】
○「天気予報」の精度は上がり続けている! そのワケは?
○「降水短時間予報」は、ふたつのいいとこ取りの技術を使っている
○正しく知る「警戒レベル」と「防災気象情報」の意味
○手ごわい「線状降水帯」。予測の切り札は次世代衛星「ひまわり」
○「天気に国境はない」。気象データは無料・無制約で国際交換
○地球温暖化は本当かフェイクかと論じている場合ではない
○「AI予報」で気象庁はどうなる?
など