予測の正しさと「空振り」

「空振りをおそれない」というのは、気象庁にとっても大切な言葉です。あらかじめ決めた基準を満たす気象状況が予想される場合に躊躇なく情報を出すことはもちろんですが、この言葉は、気象庁にとってそれ以上の意味を持っています。

情報の利用者に対して、「空振り」をおそれずに、情報を信じて行動してくださいと言えるようにしておくためには、その情報が最善のものでなければなりません。

それは、予想が必ず当たるということではありませんが、予測技術が最高のもので、その技術を踏まえた最善の情報を発表しているということでなければなりません。さもなければ、「空振り」をおそれないという考え方も、認めてもらえなくなってしまいます。

気象庁では、予測技術を高めることに全力を挙げてきました。その結果、予測の精度は次第に上がってきています。これからも最大限の努力をして、誤差をできる限り小さくしようとしていくことと思います。しかし、残念ながら誤差をゼロにすることはできません。

防災気象情報についても「空振り」という言葉が使われています。大雨や大雪、暴風など、災害が起こるような状況になると予測したけれど、実際にはそうならなかった場合のことです。

逆に、大雨などが発生すると予測しなかったのに、実際には発生したという場合には、「見逃し」といいます。

「空振りをおそれない」防災気象情報の予測技術を高めるため、”気象庁が全力を挙げてやってきたこと”とは?_3

災害を起こすような大雨や暴風の発生などを見逃すと、住民のみなさんが大雨や暴風に不意打ちされることになり、大変危険です。このため、防災に関連した予測をするときに、「見逃し」をしたくはありません。

この気持ちはわかってもらいやすいと思います。ところが、予測の精度に限界があるので、できるだけ「見逃し」を減らそうとすると「空振り」が増えてしまいます。

たとえば、「流域雨量指数」は、値が大きいほど氾濫が起こる可能性が高いというものですが、ではその値がいくつになったら警報を発表するのかという基準を決めるのは簡単なことではありません。

基準を低く設定すると、少しでも可能性があれば警報を出すことになり、「見逃し」を減らすことはできます。ならばそれでいいではないかと思うかもしれませんが、そうすると、「空振り」が増えてしまうのです。

一方で、「空振り」を減らそうとして基準を上げると、今度は「見逃し」が増えてしまいます。このように、「空振り」と「見逃し」は、どちらかを減らそうとするともう片方が増えるという、トレードオフの関係にあるのです。