「こんな人がいたらよかった」を描く
――この漫画では主人公である犬神が次々と組織内に潜むハラスメント事案を発見し、適切に配置運用すべく、人事の審判を下す姿が爽快に描かれていますが、実際の社会では見過ごされてしまうことも多いです。その点、はやかわさんはどう捉えていますか。
はやかわけんじ(以下同) まずこの漫画自体がエンターテインメントということです。この漫画を作ろうと思ったきっかけは、僕が前に描いた刑事ものの作品で、児童虐待を扱った回に対して、XのDMで初めてファンレターを頂いたことです。
その方自身が親との関係がよくなくて、「こんな人がいたらよかったのになって思いました」と綴ってくれていました。同じことを、僕の後輩や友達にも言われたんです。
だから、この漫画を作るうえで僕が一番大切にしているのは、「こんな人がいたらよかったのに」ということです。現実は本当にひどいです。ハラスメントが見過ごされて被害を受けた社員が泣き寝入りして辞めていくなど、利益優先で助けてくれない会社があることは知っています。
じゃあ物語も現実そのままでいいのかといったら、僕はそうではないと思う。現実で一番辛いところを最前線で見ている監修の柊さんも、この漫画に本気で参加してくれて、「世の中こうなったらいいね」と強く語ってくれています。
僕はあえて胸を張って、「社会がこうなったらいいな」「こんな人がいてくれたらいいな」という理想を描いていこうと思っています。
――1巻に関して、はやかわさんが個人的に好きなシーンはありますか?
恥ずかしがらずに言えば、「社員の幸せこそが会社の利益になるんです」という台詞を大手を振って描けたことは、自分としてはよかったです。この理想に準じるしかないよなって。